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しおりを挟むルドルフが王族となる日はそれからすぐだった。
世話になっていた使用人たちとも別れを済ませ、育ての父親であるフランクとも親子としての最後の言葉を交わした。
今後は王族となるルドルフに軽口は叩けなくなる。
許されるとするならば、ルドルフが許可し面会時に周りに誰もいなければ、となるだろう。
ディアンヌもルドルフと共に登城する。
そして今日はウィルベルトの後宮に泊まってくることになっている。
つまり……そういうことだ。
フランクはわかっている。
ディアンヌが明日帰ってくることはないだろう、と。
妊娠するために子種を授けてもらうだけならば、その期間だけ交わればいい。
だが、ウィルベルトは毎週のようにディアンヌを抱く気でいるのだ。
閨指導係の時も、数回のはずがひと月半に延びた。
今思えば、あの恋人のように過ごした期間はウィルベルトにとっては本気の恋だったのだろう。
ディアンヌが愛妾を断ったことで、期限を切らざるを得なかった。
今回は毎週のようにルドルフを訪れることになっているので、何度も延長はしないだろう。
だが、初回の今日は久々なこともあり2~3晩は離さないのではないか。
そうフランクは思っている。帰宅は3日後の予想だ。
ディアンヌはいつ気づくだろうか。
ウィルベルトに愛されていることを。
子供を授かっても、授からなくても、もう逃げることはできないということを。
そんなことを考えながら、フランクは笑顔で2人の乗った馬車を見送った。
両陛下と実の父親であるウィルベルトに挨拶をしたルドルフは、堂々としていた。
先日10歳になったばかりだ。
ディアンヌは我が子とは思えないほどの落ち着きぶりに、やはり王家の血筋を感じた。
「よく来た。私は国王だが、私的な場ではお祖父様と呼んでくれるか?」
「はい。お祖父様。」
「本当にウィルベルトそっくりね。子供の頃のあの子を見ているようよ。お祖母様と呼んでね。」
「はい。お祖母様。」
「私のことは、父上、と呼んでくれるのだろうか?育ての父と区別した方がよいか?」
ウィルベルトの問いに、ルドルフは笑顔で答えた。
「父上とお呼びします。話し合って育ての父のことは伯父上と呼ぶことにしましたので。」
「そうか。ありがとう。」
呼び名は呼び名だ。フランクにこだわりはなかった。
逆に、ウィルベルトは父上と呼ばれたいはずだから。
10年間、父としてルドルフを育ててきた思いは変わらない。
だが、『伯爵』と他人同様に爵位で呼ばれるのは辛い。
母であるディアンヌの兄のような存在ということで、伯父上という呼び名で落ち着いたのだ。
「利発そうな子だ。今後が楽しみだな。」
「そうね。王子殿下、と呼ばれることになるけれど、王太子殿下となる日も近いわね。」
王妃様の言葉に、ウィルベルトもディアンヌも驚いた。
「待ってください。まだ私が国王になるのは早いですよ。あと10年くらいは頑張ってください。」
「いいじゃない。赤子じゃなく10歳の子がいるのよ?本当に嬉しい誤算だわ。
あなたも来年は30歳になるし、数年以内で問題ないんじゃないかしら。」
確かに国王陛下は50歳を過ぎている。
国によっては亡くなるまで国王は変わらない場合もあるが、年を取ってくると国王代理という場面が増える。
そのため我が国は元気なうちに譲位して、余生を自分の時間として過ごしているのだ。
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