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しおりを挟むベックの子供を妊娠した女性は娼婦ではなく、隣国の貴族夫人だった。
離婚しているため、今は貴族令嬢というべきか。
「僕は接待を受けただけだ。子供ができたのは僕のせいではないだろう?襲ったわけでもない。そもそも自分の妻を差し出した男が悪いんじゃないか。僕は関係ない!」
確かに、娼婦や接待などで男性の相手をする女性であれば事前あるいは事後に自衛する手段を講じているはずだ。
しかし妊娠した女性は4年も妊娠することがなかったから、妊娠できない女性だと思われていたので何の自衛もしなかったのだろう。
ベックの言い分もわからなくはない。
だがそれも、サリーシャには他人事だと言いたい。
それくらい、もうサリーシャはベックを受け入れられないのだ。
結婚式を挙げる前に発覚して助かった。
あと一日遅ければ、今晩は初夜でサリーシャはベックに抱かれたことだろう。
不特定多数の男を受け入れている女性を何人も抱いていたベックに汚されていたかと思うとゾッとする。
どんな病気を持っているかもわからないのだ。
ベックが訪れた国の中には、治安はもちろん衛生面にも不安な国もある。
娼婦が定期的に検査を受けられる環境ではないかもしれないのだ。
同じことをサリーシャの父親も感じたのか、ベックに言った。
「君は一度、性病検査を受けた方がいいだろう。他国ではこの国ほど管理ができていない。
それと、サリーシャとの結婚は白紙に戻す。私たちは君の行動を受け入れられない。」
「どうしてっ!外交官と結婚するという時点で接待は当然のことではないですかっ!」
「飲食を伴う接待はもちろんある。だが、女性を手配するような接待は大昔の話で、今はあり得ないことだと思っていた。外交官はそれが当たり前だと言うのであれば大きな問題だろう。」
ベックは目を丸くして驚いていた。知らなかったのだろうか。
父が言うには、女性に乱暴を働いたと言われたり、娘に手を出されたと言われたり、それこそ妊娠したと言われたりして有利な外交を引き出す手段として女性を使う国が増えたことで、そういう接待は断ることになっているはずだと言う。
「君は出張時の注意を聞いていなかったのか?」
「……僕の上司も接待を受けていて、断ってはいけない、これは仕事だから、と。」
「悪い上司に当たったんだな。だが上司以外からも指示があったはずだ。違うか?」
「……外交官になってすぐに禁止事項として聞きました。ですが上司があれは形だけだと。」
「そんなはずはない。現に君はこうして女性トラブルを起こしている。その女性の夫は、君が妻を閨に引きずり込んだのだと、無理矢理だったのだと主張するだろう。女性の方も、子供の父親である君には自分たちの面倒を見る義務があるはずだと思ってやって来たのだと思う。
まぁ、その女性と子供については私たちにはもう関係ない。」
妊娠した女性が娼婦でなかったことがベックにとって良かったのか悪かったのか。
娼婦だったなら、妊娠はそれこそ仕事でのミスで誰の子供かはわからなかっただろう。
だが、貴族夫人だったために知らなかったで済ますには証拠がない。
ベック以外の男性の接待をした可能性もあるが、それも証明できない。
そもそも、ベックもベックの上司も違法接待を受けたことで何らかの処分があるはず。
その間も子供はお腹の中で成長し、やがて産まれてくるのだ。
産まれてくる子供がベックに似ていても、似ていなくても、もうサリーシャは関わりたくなかった。
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