侍女から第2夫人、そして……

しゃーりん

文字の大きさ
13 / 14

13.

しおりを挟む
 
 
セルフィ様の語った過去は、驚くと共に納得もした。

接する機会の少なかった異性に憧れを抱き、独占したくなるというのもわからなくはない。
ガレント様が優しすぎたことも原因の一つ。
婚約していたことで、学園に通えた時でも他の令息に目を向けることがなかったから。

ようやく結婚できたのに、夫が自分を見る目は女性としてではなく妹のようで。
体調を気遣い、どこまでも優しい。

ガレント様は3年で婚姻を解消するつもりでいたのではないかと思う。
白い結婚。
セルフィ様には言わなかったが、そのつもりだった。
 
セルフィ様は、子供を産むことは命がけになるとわかっていたけれど、結婚したからには産まなければ公爵家にいられないし、人より短い人生なのであれば子供を産んで生きた証を残したいと思った。

脅すように抱かせた夫に触れられて、自分がガレント様に望んでいたのは男としての性的な接触ではなくて兄のような優しい温もりだったことに、ようやく気づいた。

妊娠していなくても、二度とガレント様を求めることはなかっただろう。

妊娠したセルフィ様の側にずっとガレント様がいられるわけではない。
自分の代わりにいつでもセルフィを抱き上げて運べるようにするためには男をつけるしかなかった。
侍従兼護衛にリンクが選ばれた。

恋をしたのはリンクが先なのだと思う。
リンクの視線を感じて、セルフィ様も意識をした。
それがやがて、恋であるということを認識してしまった。

お互いに告げることはできないし、したくない。
だけど、ガレント様が認めていると2人も感じているのだろう。

暗黙の了解の関係が出来上がった。

こんな幸せな形があってもいいのではないかと思う。





それから数か月が経ち、ルイーズは女の子を出産した。

物凄く、大喜びされた。
男子継承優先のこの国で、女の子が産まれてここまで喜ばれるとは。

嫁ぎ先の高位貴族にも困らないし、公爵家の跡継ぎとなっても婿入りする貴族に困らないからというのはわかるけどね。
 
妹ができたと喜ぶローラを見てセルフィ様も嬉しそうだった。

3歳を過ぎたローラの腕に妹を乗せてやり、支えるようにして2人を抱きかかえたセルフィ様。

セルフィ様が起き上がれた最後の日となり、その10日後に亡くなった。


セルフィ様がいなくなったことに、しばらくはローラも戸惑っていた。
覚悟していた私たちとは違い、まだ理解ができない。
だけど、妹セイラに夢中になり、その姿を見て公爵家・侯爵家全員が癒されていた。



セルフィ様が亡くなったことにより、ルイーズは第2夫人から正妻になった。

ルイーズは子供を産んだし、健康で社交にも問題がない。
つまり、ガレントにはもう第2夫人は必要ない。
もしも他の女性と関係を持っても愛人でしかないし、子供ができても庶子となる。
この国では庶子の扱いはあまりいいものではないため男側は我が子であっても養子として引き取るが、それは跡継ぎがいない場合の話。
ほとんどの庶子は、男側の籍に入れられることはない。つまり認められない。

なので、ガレント様を誘惑しても意味がないのだ。


実は、ルイーズが第2夫人になってからすぐに公爵家の侍女採用試験があった。
正妻と第2夫人がいることで、一部の令嬢は勘違いしてしまったのである。

『妊娠すればルイーズの代わりに第2夫人になれる』と。

下心を隠して無害な顔で公爵家にやってきた新しい侍女たち。
その頃にはルイーズは妊娠してお腹も目立ち始めていた。
その侍女たちにとってルイーズの妊娠は誤算ではあったが自分も妊娠すれば可能性はあると思い込み、ガレント様を誘惑しようとして即、首。
 
たとえ誘惑に成功して妊娠しても庶子でしかないこと、ルイーズが妊娠していなくても第2夫人が変更されることはないと説明を受け、愕然として実家に戻されたという。

第2夫人がいる貴族家がほとんどないため、今では実情が正しく伝わっていないことが原因だった。


 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

禁断の関係かもしれないが、それが?

しゃーりん
恋愛
王太子カインロットにはラフィティという婚約者がいる。 公爵令嬢であるラフィティは可愛くて人気もあるのだが少し頭が悪く、カインロットはこのままラフィティと結婚していいものか、悩んでいた。 そんな時、ラフィティが自分の代わりに王太子妃の仕事をしてくれる人として連れて来たのが伯爵令嬢マリージュ。 カインロットはマリージュが自分の異母妹かもしれない令嬢だということを思い出す。 しかも初恋の女の子でもあり、マリージュを手に入れたいと思ったカインロットは自分の欲望のためにラフィティの頼みを受け入れる。 兄妹かもしれないが子供を生ませなければ問題ないだろう?というお話です。

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。

自国から去りたかったので、怪しい求婚だけど受けました。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アミディアは婚約者と別れるように言われていたところを隣国から来た客人オルビスに助けられた。 アミディアが自国に嫌気がさしているのを察したオルビスは、自分と結婚すればこの国から出られると求婚する。 隣国には何度も訪れたことはあるし親戚もいる。 学園を卒業した今が逃げる時だと思い、アミディアはオルビスの怪しい求婚を受けることにした。 訳アリの結婚になるのだろうと思い込んで隣国で暮らすことになったけど溺愛されるというお話です。

いくつもの、最期の願い

しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。 夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。 そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。 メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。 死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。

心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。 理由は他の女性を好きになってしまったから。 10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。 意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。 ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。 セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。

出会ってはいけなかった恋

しゃーりん
恋愛
男爵令嬢ローリエは、学園の図書館で一人の男と話すようになった。 毎日、ほんの半時間。その時間をいつしか楽しみにしていた。 お互いの素性は話さず、その時だけの友人のような関係。 だが、彼の婚約者から彼の素性を聞かされ、自分と会ってはいけなかった人だと知った。 彼の先祖は罪を受けず、ローリエの男爵家は罪を受け続けているから。 幸せな結婚を選ぶことのできないローリエと決められた道を選ぶしかない男のお話です。

友人の好きな人が自分の婚約者になりそうだったけど……?

しゃーりん
恋愛
ある日、友人リリスに好きな人ができたと告げられた。 協力するという他の友人たち。私クレージュも「思いが通じるといいね」と言った。 それからわずか数日後、父から告げられた婚約する予定の令息ロメオはリリスの好きな人だった。 でも、これは政略結婚。友人の好きな人だから嫌だと言うつもりはなかったが、顔合わせをしたロメオの印象はあまり良くなかったこともあり、少し調べることになった。 リリスには正式に婚約することになったら話そうと思っていたが、翌日に学園でロメオに話しかけられて婚約するかもしれない相手だと知られてしまう。 なのにリリスがロメオに告白。なぜかロメオに責められる私。自分が悪者にされて呆れるというお話です。

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。

しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。 幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。 その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。 実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。 やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。 妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。 絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。 なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。

処理中です...