認知裁判とその後

しゃーりん

文字の大きさ
8 / 20

8.

しおりを挟む
 
 
ベルーガ公爵の認知裁判には多くの貴族が傍聴しに来ていた。
 
『男子継承優先』から『女子継承優先』に代わる。

女王陛下のお言葉を、否定する者、受け入れる者、様々であることは当然である。

しかし、頭の悪い男ほど、否定的になるものだった。
 

「女王陛下、建国からの長い歴史を愚弄なさるのですか?」


女王陛下に申したのは、ベルーガ公爵だった。


「あら。ベルーガ公爵家の始祖は王女ですよ。そして過去には『長子継承優先』の時代もありました。なにも男ばかりで栄えてきたわけではありません。
公爵位にありながら自分のことばかりのあなたが国の歴史を語るとは。」


女王陛下の嘲笑に、ベルーガ公爵は怒りに震えていた。

彼は公爵である。
人前で侮辱を受けるようなことは過去になかった。

セルシオ・ベルーガはベルーガ公爵家の特徴的な目を持って産まれてきたこともあり、大切に大切に育てられた。
他に兄弟もいなかったことから比較されることもなく争うこともなく、少々頭が悪くても叱られることもなかった。

周りを優秀な者で固めれば、跡を継いでもセルシオはサインをするだけでいい。
そのように、セルシオの両親が甘やかしてしまったからだ。
実際、両親亡き後、セルシオは実務などほとんどしていないのだから。

唯一、彼の思い通りにならなかったのが婚約者。
5歳年上で結婚間近のルチェリアを手に入れることは許されず、政略で真面目な令嬢と婚約させられた。

邪魔だった両親と元婚約者がセルシオの前から消え、それ以降、誰もセルシオに意見することなどなかったというのに、たとえ女王といえども女に嘲笑されるなどセルシオのプライドは傷ついた。

怒りに震えるベルーガ公爵に、女王陛下は驚くようなことを言った。


「ベルーガ公爵、あなたには今回の認知することになった男児以外に、三人の女児の父親である疑いがあります。あなたの身勝手な言動により、女児たちは乳児院に置き去りにされました。他にもいるかもしれませんね。」


男児ではなく女児であったために、認知はしてもらえないと産み捨てられたのだ。
産んだ母親もひどいことをするが、やはり『半分の確率でも産む勇気があるのなら試してみればいい』というベルーガ公爵の発言に煽られたと言えるだろう。


「……は?三人の女児?それこそ、私の子だという証明はない!」 

「確かにそうですね。大丈夫です。もう引き取られてそれぞれ幸せに暮らしていますから。」


なら、どうしてわざわざ言う必要があったのか。
それはベルーガ公爵の無責任な言動を知らしめるためでもあり、怒らせるためでもあった。

 
そして、女王陛下のこの後の発言で、ベルーガ公爵は更に怒ることになる。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やめてくれないか?ですって?それは私のセリフです。

あおくん
恋愛
公爵令嬢のエリザベートはとても優秀な女性だった。 そして彼女の婚約者も真面目な性格の王子だった。だけど王子の初めての恋に2人の関係は崩れ去る。 貴族意識高めの主人公による、詰問ストーリーです。 設定に関しては、ゆるゆる設定でふわっと進みます。

私の事を婚約破棄した後、すぐに破滅してしまわれた元旦那様のお話

睡蓮
恋愛
サーシャとの婚約関係を、彼女の事を思っての事だと言って破棄することを宣言したクライン。うれしそうな雰囲気で婚約破棄を実現した彼であったものの、その先で結ばれた新たな婚約者との関係は全くうまく行かず、ある理由からすぐに破滅を迎えてしまう事に…。

突然倒れた婚約者から、私が毒を盛ったと濡衣を着せられました

恋愛
パーティーの場でロイドが突如倒れ、メリッサに毒を盛られたと告げた。 メリッサにとっては冤罪でしかないが、周囲は倒れたロイドの言い分を認めてしまった。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

陰で泣くとか無理なので

中田カナ
恋愛
婚約者である王太子殿下のご学友達に陰口を叩かれていたけれど、泣き寝入りなんて趣味じゃない。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

見えるものしか見ないから

mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。 第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……

王子様の花嫁選抜

ひづき
恋愛
王妃の意向で花嫁の選抜会を開くことになった。 花嫁候補の一人に選ばれた他国の王女フェリシアは、王太子を見て一年前の邂逅を思い出す。 花嫁に選ばれたくないな、と、フェリシアは思った。

平凡な伯爵令嬢は平凡な結婚がしたいだけ……それすら贅沢なのですか!?

Hibah
恋愛
姉のソフィアは幼い頃から優秀で、両親から溺愛されていた。 一方で私エミリーは健康が取り柄なくらいで、伯爵令嬢なのに贅沢知らず……。 優秀な姉みたいになりたいと思ったこともあったけど、ならなくて正解だった。 姉の本性を知っているのは私だけ……。ある日、姉は王子様に婚約破棄された。 平凡な私は平凡な結婚をしてつつましく暮らしますよ……それすら贅沢なのですか!?

処理中です...