認知裁判とその後

しゃーりん

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裁判官が、ベルーガ公爵にグリーン男爵令嬢が産んだこを認知するよう通告した。

それに対し、ベルーガ公爵は見たことがないくらいに怒りを爆発させた。


「ふざけるなっ!!私は認めない、認めないぞ!!」


ベルーガ公爵が叫ぶが、裁判官は判決を覆すことなく淡々と告げた。


「……認知に伴い、グリーン男爵令嬢との子には相続権、養育権が発生します。
ほら、あちらをご覧ください。ベルーガ公爵そっくりの可愛い男の子ですね。」


いつの間にか、傍聴席の片隅に赤ん坊を抱いた女性が座っていた。 
アリシアのいる小部屋から瞳の色までは見えにくいが、赤ん坊は髪の色もベルーガ公爵と同じだった。 
 
赤ん坊を見ても、ベルーガ公爵は首を横に振って受け入れることを拒否していた。
 

「そろそろ出番ね。」


そう言って、母ルチェリアの友人は小部屋から出て行った。

アメリアは不思議に思い、母に聞いた。


「出番、って?」

「もうすぐあそこから姿を見せるわ。この国を変えるために。」


法廷を見下ろせる位置にある、アメリアのいる小部屋からほど近い一段高いところに、人が二、三人ほど立つことができるバルコニーのような場所があった。
そしてカーテンが開かれて、姿を見せたのが先ほどまでここにいた母の友人、この国の女王である。

あの場所は王族のみが許されるらしく、姿を現した女王に法廷内がどよめいた。


「ベルーガ公爵、息子ができてよかったですね。おめでとう。」

「女王、陛下。なぜこちらに?」


まさか、自分の裁判に女王陛下が訪れるなど、ベルーガ公爵も驚きを隠せなかった。


「この裁判がよいきっかけをくれました。
即位後、初めての政策としてこの国の王侯貴族を『女子継承優先』とすることをここに宣言します。」


この国の王女殿下であった彼女が女王になってから、まだひと月にもならない。
彼女には兄がいたが、彼はもう十年以上離宮で静養している。
愛人と揉めたのか、一緒に階段から転落して頭を打ったのだ。正常に戻ることは、もうない。 

兄の事故後、彼女が王太子にならざるを得ず、将来の王配となる婿を迎え、王女を二人産んだ。

次代も女王となることに難色を示され、『王子』を求める声にうんざりしているのだ。


「ここ数十年、政略結婚した妻とその間に生まれた子を捨て、愛人を妻に庶子を跡継ぎにと愚かなことをする貴族家が散見されています。
妻の浮気をでっち上げたり、我が子を不義の子だとして慰謝料すら払わない。妻の実家の支援を受けたにも関わらず、立ち直ると妻子を捨てる。そんな身勝手な行為は許されません。」


ひと昔前とは違い、愛人の言いなりになる愚かな男が増えたのだ。


「同じ家で使用人に囲まれている妻が不義の子を生むことなどほぼあり得ません。反して、自分の目の届かない愛人が生んだ子が本当に我が子だとどうやって証明するのでしょうか。知らぬうちに他家の血筋に乗っ取られている貴族家もあるかもしれません。
代々受け継がれてきた血筋を守るためには、女性が家を継ぐべきです。 
そうなれば、身勝手な夫に捨てられることもなく、逆に夫を切り捨てることができますからね。」
 

不遇な目に合う子が減ることは確実である。

 
 
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