初恋は沼、あるいは闇

しゃーりん

文字の大きさ
1 / 7

1.

しおりを挟む
 
 
ジャレッドは王都のクレセント公爵邸の豪華さに圧倒されていた。

使用人が何か言っているが、耳に入ってこなかった。

その時、正面にある階段の上から、声が聞こえた。
その声だけ、はっきり聞こえたのだ。


「まあっ!あなたがジャレッドね。」


9歳のジャレッドより少し上の令嬢が階段を下りてくる。


「……天使?」


ジャレッドより淡い金髪が光を浴びて輝いて見えた。

天使か、あるいは女神なのか。

ジャレッドは見惚れた。
あまりの美しさに。 
 
 
「ようこそ、わたくしはマリアローズよ。あなたの従姉。だけど、今日からは姉になるわね。」
 
「初めまして、ジャレッドです。よろしくお願いします、……マリアローズ様。」


なんとか挨拶を返すことができた。
思わず、天使と言ってしまいそうになったが堪えられた。


「嫌だわ、マリアローズ様だなんて。姉様、いえ、男の子だから姉上と呼ぶ方がいいのかしら。」


マリアローズはジャレッドにではなく、周りにいた大人に聞いていた。


「そうですね。姉上とお呼びいただくとよろしいかと存じます。」


執事らしき男が答えていた。


「ジャレッド、わたくしのことはこれから姉上と呼んでね。」

「はい、あ、姉上。」
 

緊張して舌が回らず、ジャレッドは顔が赤くなるのを感じた。

 
「ふふ。可愛いわ。仲良くしてね。」


マリアローズに頭を撫でられ、ジャレッドは頭がフワフワした。





ジャレッドはマリアローズに手を引かれ、これから過ごす部屋へと案内された。
後ろには数人、大人がついて来ていた。


「ここがあなたの部屋よ。」 


広くて明るくて、勉強机に本棚、ソファなどがあった。
ベッドやクローゼットは隣の部屋にあるらしい。
浴室やトイレもだ。

領地の屋敷では全てが一つの部屋にあったし、こんなに広い部屋ではなかった。
浴室とトイレは共同だったし。


「ここが、僕の部屋?」

「そうよ。あなたはクレセント公爵家の者として恥ずかしくない暮らしをしなければならないわ。そのためには、知識だけでなく、着る物や装飾品一つにおいても気をつけなければならないの。」


領地から来たばかりのジャレッドが着ている物を見ながら、マリアローズはそう言った。


「今着ているような服は、そうね、剣の稽古の際に着ればいいんじゃないかしら。」

「わかりました。」
 

一応、着古していない服だけを持ってきたが、それがここでは相応しいものではないとマリアローズは言っているのだと理解した。

すぐに成長して着られなくなるため、使用人と同じような服である。


「マーカス、ジャレッドの埃を落として相応しい服を着せてあげてね。」

「かしこまりました。」

 
ジャレッドはマーカスと呼ばれた男に浴室に連れて行かれた。
マリアローズはそれを笑顔で見送り、手まで振ってくれていた。 

ああ、可愛い……
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

うまくやった、つもりだった

ひがん さく
恋愛
四大貴族、バルディストン公爵家の分家に生まれたオスカーは、ここまでうまくやってきた。 本家の一人娘シルヴィアが王太子の婚約者に選ばれ、オスカーは本家の後継ぎとして養子になった。 シルヴィアを姉と慕い、養父に気に入られ、王太子の側近になり、王太子が子爵令嬢と愛を深めるのを人目につかぬよう手助けをし、シルヴィアとの婚約破棄の準備も整えた。 誠実と王家への忠義を重んじるこの国では、シルヴィアの冷徹さは瑕疵であり、不誠実だと示せば十分だった。 かつてシルヴィアはオスカーが養子になることに反対した。 その姉が後妻か商家の平民に落ちる時が来た。 王太子の権威や素晴らしさを示すという一族の教えすら忘れた姉をオスカーは断罪する。 だが、シルヴィアは絶望もせずに呟いた。 「これだから、分家の者を家に入れるのは嫌だったのよ……」  

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

断罪された薔薇の話

倉真朔
恋愛
悪名高きロザリンドの断罪後、奇妙な病気にかかってしまった第二王子のルカ。そんなこと知るよしもなく、皇太子カイルと彼の婚約者のマーガレットはルカに元気になってもらおうと奮闘する。  ルカの切ない想いを誰が受け止めてくれるだろうか。  とても切ない物語です。  この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。   

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

とある伯爵の憂鬱

如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。

処理中です...