初恋は沼、あるいは闇

しゃーりん

文字の大きさ
2 / 7

2.

しおりを挟む
 
 
ジャレッドは王都のクレセント公爵邸に来ることになるまで、領地で暮らしていた。

父ラモンはクレセント公爵の弟で、母は伯爵令嬢だった。
家族三人、幸せに暮らしていたが、ひと月前に父が事故で亡くなった。

その時、葬儀に来た伯父であるクレセント公爵にジャレッドは初めて会った。

『……ラモンに似ているな』

そう声をかけられた。


母と二人になったジャレッドは、母の実家に行くことになっていた。

それまで詳しく聞いたことはなかったが、父と母の結婚はクレセント公爵からは反対されていたらしい。 
父亡き後、我々はこのクレセント公爵家にとって邪魔者でしかないから、と。
 
母は実家に帰る算段をつけ、荷物を纏めていた。
ジャレッドも自分の荷物を纏めていた。

しかし、明日出発という日に、母は失踪した。 


領地の屋敷内は大騒ぎになり、捜索が行われたが母は見つからなかった。
騎士が一人、姿を消したらしく、母と駆け落ちをしたのではないかという結論になった。

父は亡くなり、母は失踪か駆け落ち。
 
ほんの数週間の間に両親がいなくなったジャレッドは自分がどうしたらいいかわからなかった。 

父の死は、悲しくていっぱい泣いた。
母の失踪は、捨てられたのだと気づき、呆然として涙も出なかった。


そんな時、屋敷の誰かが王都のクレセント公爵に母の失踪を知らせ、その返事が届いたという。
手紙には、ジャレッドを引き取るから王都に連れてくるように書いてあったという。 

『ジャレッド様、伯父であるクレセント公爵様が養子にしてくださるそうです。泣き言を言わずに公爵様に従い、感謝し、立派な公爵令息になるのですよ』
 
そう言われて領地の屋敷を出ることになった。
 

 
入浴を済ませ、汚れを落としたジャレッドは、肌触りのいい服を着せられた。

するとどうだろう。
自然と、姿勢よく立つ自分がいた。 


「ジャレッド様、私はジャレッド様の侍従兼教育係のマーカスと申します。マーカスとお呼びください。」

「マーカスさん、わかりました。」

「私には敬語は必要ありません。使用人ですので。」

「わかった。よろしく、マーカス。」


マーカスは”それでいい”といったように頷いた。
といっても、明らかに教育指導中の教師といった感じで、使用人の風格ではなかった。

ジャレッドをクレセント公爵令息に仕立て上げることを楽しみに思っている気がした。
 

「ジャレッド様、クレセント公爵様がお待ちでございますのでご案内いたします。」

「わかった。」


クレセント公爵。
ひと月前の父の葬儀で初めて会った父の兄。

そして、マリアローズの父親でもある。
 
天使のようなマリアローズとはとても親子とは思えなかった。

マリアローズは母親似なのか?

これから向かうクレセント公爵のところには公爵夫人もいるのだろうか。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

うまくやった、つもりだった

ひがん さく
恋愛
四大貴族、バルディストン公爵家の分家に生まれたオスカーは、ここまでうまくやってきた。 本家の一人娘シルヴィアが王太子の婚約者に選ばれ、オスカーは本家の後継ぎとして養子になった。 シルヴィアを姉と慕い、養父に気に入られ、王太子の側近になり、王太子が子爵令嬢と愛を深めるのを人目につかぬよう手助けをし、シルヴィアとの婚約破棄の準備も整えた。 誠実と王家への忠義を重んじるこの国では、シルヴィアの冷徹さは瑕疵であり、不誠実だと示せば十分だった。 かつてシルヴィアはオスカーが養子になることに反対した。 その姉が後妻か商家の平民に落ちる時が来た。 王太子の権威や素晴らしさを示すという一族の教えすら忘れた姉をオスカーは断罪する。 だが、シルヴィアは絶望もせずに呟いた。 「これだから、分家の者を家に入れるのは嫌だったのよ……」  

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

断罪された薔薇の話

倉真朔
恋愛
悪名高きロザリンドの断罪後、奇妙な病気にかかってしまった第二王子のルカ。そんなこと知るよしもなく、皇太子カイルと彼の婚約者のマーガレットはルカに元気になってもらおうと奮闘する。  ルカの切ない想いを誰が受け止めてくれるだろうか。  とても切ない物語です。  この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。   

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

とある伯爵の憂鬱

如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。

処理中です...