初恋は沼、あるいは闇

しゃーりん

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部屋に戻ったジャレッドは、マーカスに聞いた。 
 

「公爵夫人にご挨拶はしなくていいの?」
 
「あぁ、奥様はご病気なのです。体調が良い日にお目にかかることになると思いますよ。」

「病気ってどこが悪いの?」

「元々、病弱な方らしく、マリアローズお嬢様をご出産後、ますます寝込まれることが増えまして。我々が軽い風邪なのに、奥様は何日も高熱を出されるといった感じで、免疫力が弱いと言われております。」
 

免疫力と言われてもよくわからないが、人よりも体が弱い女性らしいということはわかった。


「そうなんだね。ねぇ、僕は公爵様のことを何とお呼びするのが正しいのかな。公爵様?伯父上?父上?」


マリアローズを姉上と呼ぶなら、伯父様や父様は違うだろう。


「亡くなられた御父上のことは何とお呼びになっていましたか?」

「父様、と。」

「では、公爵様のことを父上、とお呼びすることに抵抗はありませんか?」 

「ないかな。」

「では、『父上とお呼びしてもよろしいですか?』とお聞きしてはどうでしょうか。それも会話の一つになります。」
 

つまり、父上と呼ぶのが正しいということらしい。
二年後に追い出すかもしれない養子に今からそう呼ばれるのは公爵は不快かもしれないと思ったが、むしろ、父上と呼び続けられるように、自分が努力すればいいだけのことだ。

 
「姉上は何歳なのかな?」

「マリアローズお嬢様は12歳になられたばかりでございます。ジャレッド様とは3歳差ということになりますね。」


3歳上なのか。
マリアローズから見れば、ジャレッドはまだ小さい子供に見えたのだろう。 

頭を撫でられたり、手を引かれたりしたが、むしろ子供扱いされたからこそ、触れてもらえたのだと思うと子供でいたいと思ってしまう。

だって、天使に触れてもらえるのだから。 


「ジャレッド様、今晩の夕食はお部屋でお召し上がりいただくことになっております。私がマナーをチェックし、許可できるまで公爵様とマリアローズお嬢様との晩餐はできません。」

「え……」


マリアローズに会えない?
ショックだ。
いつまで会えないのだろうか。


「マリアローズお嬢様とは朝食はご一緒できますが。」

 
何だ。驚かさないでほしい。


「今後、全ての言動をチェックさせていただき、その都度、指導させていただきます。二年という時間は決して長くはありません。
マナーは自然と身につくことが大事ですが、知識は場合によっては、詰め込むことになるかもしれません。領地でどの程度学習していたか、楽しみですね。」


マーカスの目が意地悪そうに笑っているように見える。

勉強は嫌いではなかったが、のんびりやっていた。
公爵令息の基準には全く届かないだろう。

王都に着いた初日から、ジャレッドは勉強机に向かうことになった。
 
 
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