初恋は沼、あるいは闇

しゃーりん

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翌朝、ジャレッドはマリアローズに会えることが嬉しくて起床時間前に目が覚めた。

昨日の旅の疲れは、天使のようなマリアローズを見たことですっかり吹き飛んでいたが、それでも素晴らしいベッドに横たわった瞬間に眠りに落ちた。

マーカスはまだ起こしに来ていないが、ジャレッドはベッドから下りてカーテンを開けた。 


「いい朝だ!」


父が亡くなり、母が失踪してから、こんなに気持ちよく朝を迎えたことはなかった。
クレセント公爵がジャレッドを引き取ってくれて、マリアローズと会わせてくれたお陰だ。

ジャレッドは、自分が新しい自分に生まれ変わったのだと自然に笑顔になった。
 

「おはようございます、ジャレッド様。お早いお目覚めだったのですね。」

「おはよう、マーカス。」


昨日は、食事のマナーをチェックされる視線の鋭さに息が詰まりそうになった。

『思っていたよりもひどいものではありませんでした』

ホッとするべきなのか、悔しがるべきなのか。

公爵家と伯爵家で育った両親と食事をしていたのだから、お手本に問題はなかったのだ。
しかし、跡を継ぐ爵位もないジャレッドに両親が口うるさく注意する必要はないと思っていたのだろう。

基本的なことがわかっていればいいと楽しく食事をすることが優先されていた。

これからは基本的なことだけでは足りない。
優雅さや、いかに音を立てずにスムーズにできるかを学ばなければならないようだ。 


勉強の方は、興味が偏りすぎていたせいで、進み具合にズレがあると言われた。
苦手な科目があってはならない。 
国の歴史、クレセント公爵家の歴史、国内貴族の動き、近隣国の情勢など、全て頭に入れると言われ、気が遠くなりそうだった。


顔を洗い、服を着替え、朝食の時間になった。


「公爵様は睡眠時間が短い御方でして、朝食は先にお召し上がりになります。マリアローズお嬢様はお一人でお召し上がりでしたので、ジャレッド様とご一緒できることを嬉しく思っておられるようですよ。」


あぁ、早く天使に会いたい。

そう思いながら食堂に着くと、マリアローズは先に座っていた。


「おはようございます、姉上。」

「おはよう、ジャレッド。よく眠れたかしら?」

「はい。ぐっすりと。」
 

あぁ、天使の笑顔が眩しい。
毎朝この笑顔を目にすることができると思うと、どんなことも頑張れる気がした。


マリアローズが朝食を食べる姿を見て、”優雅さ”が理解できた。

見習って、早く彼女に追いつきたい。
一緒に過ごして恥ずかしいと思われないようにしたい。
 

「ふふ。一緒に食べると楽しいわね。」
 
「はい!」


思わず大きな声で返事をしてしまい、もっと自然な受け答えができるようにならないといけないと反省した。 

 
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