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あれから毎日のようにミーシャは教会を訪れている。
おじいさんと神父様に促されて孤児たちと話をするようにもなった。
分厚いメガネに子供たちはポカーンとしていたけれど、目が悪いと言うと『そっか』で終わった。
特に気になるものでもないらしい。
しかしそれは、ここの子たちは自分たちのことで精一杯だからだった。
子供たちは慣れた手順でいろいろとこなしていく。
字や数の勉強をしている子たちに倣って自分も何かを学びたいと思い、孤児院にしては多い蔵書を一つひとつ手に取って流し読みをしたりもした。
畑仕事は服が汚れるので見学していたけれど、野菜や薬草をたくさん育てていて、葉っぱを見ながら何の種類かを自分で調べていくのも楽しかった。
それを通じて、書物は知識の宝庫だと思った。
何なら礼儀作法も書物で覚えられる。……実地は不安だけど知らないよりマシね。
そんな日々が一年近く過ぎたある日から、おじいさんは教会に姿を見せなくなった。
神父様もご存知ないようで、何かあったのかとミーシャは心配だった。
しかし、ミーシャも教会に行けなくなることが決まった。
父が縁談を言い渡したからだ。相手は65歳の前侯爵様ということだった。
父が言うには相手は病気のため、最期の時を共に過ごしてくれる妻を探していたそうだ。
今すぐぽっくりと逝くわけではなく、本を朗読してくれたり一緒に庭を散歩してくれたり、もちろん先には介護も伴うことになるので、結婚に縁がなさそうな若い貴族令嬢を希望したということだった。
条件は、結婚時に実家との縁はきれいさっぱりと切ること。
つまり、相手が亡くなっても実家の籍には戻れないということだった。
父の中では、この縁談は決定したものだった。
しかし、ミーシャは考えていた。
これはあの時におじいさんが言った『逃げる』機会なのかしら?
娼館ではない。借金のカタでもない。介護要員は『売られる』に当てはまる?
でも、格上の貴族からの申し入れなので『逃げる』ことは厳しいのよね。
ミーシャが『逃げる』とも思ってもいない父親は、その後は相変わらず無視なのでミーシャも変わらず教会へと向かった。
ミーシャはもうすぐ16歳。結婚する日が近づいている。
おじいさんは今も姿を見せてくれない。
ここしばらく思い悩むミーシャに、神父様が声をかけてくれた。
「困りごとがあるのかな?それともおじいさんの心配?」
「……どちらもです。
神父様、おそらく今日か明日か、数日以内には私はここに来れなくなります。」
「おや。それは残念ですね。お仕事が決まりましたか?それとも縁談?」
ミーシャは、前におじいさんに言われたことと縁談相手の話を神父様に聞いてもらった。
「なるほど。確かにここに『逃げる』案件とは言い難いですね。
ですがミーシャさん。この縁談はオススメしますよ。
彼は善人です。あなたにひどい仕打ちはしません。
それに、家族との縁切りもミーシャさんにとってはいいと思います。」
「お知り合いですか?」
「そうですね。なので、『逃げる』必要はありませんよ。」
笑顔で勧める神父様に勇気をもらった気がした。
確かに私には良い縁談なのかもしれない。
失礼だが、65歳というお歳だと結婚生活も数年ということになる。
介護も、その後の生活の役に立つかもしれない。
あるいは、その後は侯爵家で働かせてもらえるかもしれない。
子爵家に戻らなくていいということは、平民になるということだろう。
数年後は一人になる。だけど、今より自由な気持ちで過ごせると思いたい。
孤児院のみんなにも別れを告げて、覚悟を決めた。
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