好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん

文字の大きさ
5 / 72

5.

しおりを挟む
 
 
エヴァンが言っていた通り、リゼルとエヴァンの婚約は解消された。

そして、傷の責任を取るということでレーゲン公爵家エドモンドとの婚約が決められた。

両親は、責任を取る必要はないと口にしたが、公爵が決めてしまったのだ。それ以上、断ることなどできなかったと父は項垂れた。

リゼルは呼ばれて、レーゲン公爵に挨拶をした。彼は頷いただけだった。
息子の婚約者が誰に代わろうと、たいして興味はないのだろう。
公爵家に迷惑をかけなければ問題ない。そう言われている気がした。

つまり、シモーヌの話は嘘だろうと思ってはいるが、エドモンドがリゼルの家に何か仕掛けようと思っていたとしてもレーゲン公爵が許すことはないだろう。 
その点だけは安心できることになった。

レーゲン公爵は帰り際に言った。


「近々、エドモンドを見舞いに来させる。アイツと、アイツの母親はこの婚約に反対しているが私の決めたことに反論はさせない。いつかアイツらも目を覚ます。少しの間、耐えてくれ。」


耐えるというのは何を言われても我慢しろという意味だろう。


「わかりました。」


そう答える以外に言葉はなかった。
 




数日後、もうほとんど痛みも取れた頃にエドモンドはやってきた。


「見舞いが遅くなってすまない。傷はまだ痛むのか?」

「いえ、もうほとんど大丈夫です。お気遣いいただきありがとうございます。」

「………………」


エドモンドは言いたい、聞きたい、何かを我慢しているようだった。

……が、結局我慢できなかったようだ。


「どうして私を庇った?」

「……刃物の向かう先がわかりましたので。」

「普通、逆だろう?逃げるか、悲鳴を上げるか。護衛でもあるまいし身を挺して庇うバカがどこにいる!」
 

ここにいたのです。


「どうして放っておいてくれなかった?私が傷を受けていればこんなことにはならなかった!君は余計なことをしてくれたんだ!責任を取ることになるなんて、それを狙っていたのか?
私にはシモーヌがいるんだ!なのにどうして君なんかと………」


『君なんかと……』

『私なんかと』と自分でも思ってはいたけれど、エドモンドに直接言われると心にグサッと刺さった気がした。
レーゲン公爵はコレに耐えろと言ったのだろう。屋敷でもリゼルのことを罵っているに違いない。


「申し訳ございませんでした。」


謝ったところで時は戻せないのだが、他に言える言葉もない。


「君が謝ったところで父の決定が覆ることはないっ!」


なら何と言ってほしい?リゼルが傷を負ったことをエドモンドが責めるから謝罪した。

感謝の言葉であれば、謝罪はしなかっただろう。
 
結局、父親に従う選択をしたのは自分なのではないの?
シモーヌとの婚約解消届にサインをし、リゼルとの婚約届にサインをしたのは誰?

そう言ってやりたかったが、リゼルは耐えるしかないのだ。

理不尽な言葉の暴力を。

レーゲン公爵が言った、エドモンドが目を覚ますときまで。

貴族としての選択と一個人としての選択。
選び間違った先に後悔が大きいのはどちらだろうか。

それを、今のエドモンドはわかっていないのだ。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい

冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」 婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。 ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。 しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。 「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」 ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。 しかし、ある日のこと見てしまう。 二人がキスをしているところを。 そのとき、私の中で何かが壊れた……。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】誠意を見せることのなかった彼

野村にれ
恋愛
婚約者を愛していた侯爵令嬢。しかし、結婚できないと婚約を白紙にされてしまう。 無気力になってしまった彼女は消えた。 婚約者だった伯爵令息は、新たな愛を見付けたとされるが、それは新たな愛なのか?

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...