好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん

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結婚式当日になった。

公爵夫人がウエディングドレスのことを聞いてきたのはなんと2日前。
リゼルが既に用意しているとわかっていて、公爵家にある先々代のウエディングドレスを着たらいいと提案され、丁重にお断りをすると姑に逆らう生意気な嫁だと罵倒された。
 
仕方がないのでそのドレスを運んできてもらい、エドモンドに『これを着てあなたの隣に立つように公爵夫人に言われたのですが問題ありませんか?』と聞いてみた。

エドモンドは顔を引き攣らせて『勘弁してくれ』と言った。

公爵夫人にも、エドモンドが『公爵家の品位を貶めることになる』と言ってくれたので、リゼルは両親が用意してくれたウエディングドレスを着ることができた。

先々代のウエディングドレスはあちらこちらにシミがあり、丈が短くてサイズも全くリゼルに合わず、何よりデザインがまるで少女のようだったのだ。

いや、先々代の時代だとひょっとすれば14、15歳の小柄な少女が嫁いできたのかもしれない。

人の目に触れる嫌がらせは自分の首を絞めることにも繋がると公爵夫人はいつ気づくのだろうか。 


そんなことを考えながらの結婚式、誓いのキスは頬だった。

公爵夫人だけでなく、エドモンドも周りにどう見られているかがわかっていなかったらしい。
公爵家は傷を負わせたリゼルを嫌々娶ることにしたのだと周りに思わせたのだ。
この結婚は、不本意なのだと。

レーゲン公爵が、拳を握りしめて今すぐエドモンドを殴りたそうにしていると思った。

エドモンドは勉強はできるのに、恋愛が絡むと愚かになる男だったようだ。
シモーヌを愛していることは構わない。しかし、それは今は隠さなければならないことだった。

だから、次期公爵としての振る舞いは落第点だと評価されてしまったことだろう。
 



初夜の寝室に現れたエドモンドは頬を腫らしていた。


「公爵様に殴られたのですか?」

「……ああ。どこにキスをするかなんてどうでもいいと思っていた。君と君の実家を貶める行為だとは思わなかった。すまない。」

「もう、過ぎたことです。」


そう。もう終わったこと。
エドモンドがシモーヌを愛していたことは多くの者が知っていた事実。
それでもリゼルを妻として迎え、尊重すると示すためには唇にキスをしなければならなかった。 
これから私たちは夫婦として歩み寄り、公爵家を支えていくのだと示さなければならなかった。

もちろん、今後、社交界で私たち2人の姿を見せることで不仲を払拭することはできる。
だがその前に、エドモンドの愛人を狙う女性が増えることも間違いない。


真摯に謝罪したように見えたが、実はエドモンドの策略だった可能性もある。

少しでも早く、リゼルと離婚するために。
シモーヌをまだ愛していると知らしめるために。

結婚したばかりだというのにそんな穿った見方をしてしまう自分が嫌だった。


 
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