好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん

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王都にシモーヌの実家、アストリー侯爵家があるにも関わらず彼女を客としてレーゲン公爵家に泊まらせると母が言ったその夜、真夜中のことだった。
 
ある部屋の扉が開き、寝室にまで入り込んだ人物がいた。シモーヌだ。
もちろんここはシモーヌに用意された部屋ではない。

シモーヌは香のようなものをベッドサイドに置いてから横たわる人影に抱きつき、言った。


「エド、起きて。あなたと愛し合いたいの。子供ができれば公爵様も結婚を許してくれる、ね?」


シモーヌがそう言うと、ベッドにいた男がシモーヌを組み敷くように体の上に覆い被さって耳元で囁いた。


「えーっと。俺の子供が欲しいってことでいいかな~?」


シモーヌがエドモンドだと思っていた男は、エドモンドではなかった。

 
「え……ちょっと、あなた、誰?」

「誰って、俺が泊まってる部屋に夜這いに来ておいてそれはないんじゃないの?」


シモーヌがどんなに暴れても男が上に乗っているため動けないのだ。

 
「ちょっと、退いてよ。私を誰だと思ってるの?やだっ触らないで。お腹に座らないで!流産したらどうしてくれるのよっ!」

「……へ~……妊娠してるんだ~。なのに、夜這い?あぁ、托卵計画で既成事実が必要だった?」


暴れていたシモーヌの動きが止まった。


「托卵、か。そこまでとは思ってなかったよ。」


エドモンドは明かりを持って寝室に入った。
ベッドの上にいるのがエドモンドではないと気づかせないために寝室は暗闇だったのだ。


「まぁ、婚前交渉で責任を取らせる計画なんだろうとは思っていたけどな。」

「……エド。」


シモーヌは目を見開いて驚いていた。


「ビクター、協力感謝する。」

「いえいえ、どういたしまして~。」
 

シモーヌは自分の上から退くビクターを見て呆然としていた。
ビクターは女好きで有名な令息だ。
なぜここにいるのかがわからないのだろう。

怪しげな香はソノ気にさせるためのものだろう。
侍従に消す処置をしてもらい、証拠品なので処分しないように伝えた。


「シモーヌ、未婚の令嬢がそんな恰好で夜這いに来るとはな。純潔でもないくせに騙して公爵夫人になるつもりだったのか?」


ベッドの上からようやく起き上がったシモーヌは、素肌がほぼ丸見えの丈の短い夜着を着ていた。それ一枚だけで下着もつけていない。下半身はほぼ丸見え。
ここまで着てきたガウンはベッドに入る前に脱ぎ捨てて下にあった。

エドモンドはそのガウンをシモーヌに放ってやった。


「誰の子だ?」


シモーヌは答えない。


「ブレイクか?」


あの従兄弟なら手を出しそうだ。


「いや、誰の子かわからないんじゃないの?」


そう言ったのはビクターだ。
しかし、シモーヌはビクターの言葉にビクッと反応した。


「辺境で遊びまくっていたんだろう?ブレイクや騎士たちと。んで妊娠したけど誰の子かわからない。公爵夫人にはブレイクの子だって言ってるんじゃないの~?」

「母も知ってるのか?まさか、托卵を許すなんてこと……」

「だって、公爵夫人にとってブレイクは甥だろ?血は繋がってるし、コイツが2人目にお前の子供を産めば問題ないって思ったんじゃないかぁ?」

「頭がおかしいんじゃないか?母も、シモーヌも。」

「同感だなー。」


エドモンドとビクターは勝手に話を進めていくが、シモーヌは怒りあるいは恐れで震えたまま否定しなかった。
否定できないのは事実であるからだろう。



その時、扉がノックされて男が報告に来た。
 

「失礼します。公爵様の方に動きがありました。」

「わかった。」


エドモンドはシモーヌに冷たい視線を向けた。


「母はどこまで君を庇うだろうか?見ものだな。」
 

シモーヌは絶望した顔になった。

 
 
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