好きな人に振り向いてもらえないのはつらいこと。

しゃーりん

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アナレージュの兄フランツは、仕方がないといった感じで胸の内を明かしてくれた。


「ルースがアミーナと婚約しているお陰で令嬢たちが安堵しているということは知っている。
中には、婚約解消するのであれば事前に知らせてほしいと頼んでくる貴族もいるほどルースが嫌われていることもな。
だが、ルースに体を許した侍女たちのように、金や将来のためならあんな男でも構わないという女もいる。
だから、ソイツらの誰かにルースを押し付けることを期待されているんだ。」

「つまり、コリタック家で働いている子爵令嬢か男爵令嬢が妊娠してくれるのを待ってるの?令嬢たちはそれを承知で働いているってこと?」 

「ああ。誘われたら受けるように親から指示されていたはずだ。」

 
アミーナと婚約を解消することになれば、ルースは別の令嬢を選んで婚約することになる。
だが、金と爵位はあってもルースを生理的に受け付けないという令嬢が多いために万が一に備えて伯爵家以上の令嬢は早く他の相手を見つけたが、年下の令嬢で探すとまだまだいるのだ。

しかし、子爵家・男爵家の令嬢ともなれば跡継ぎとの婚約ができなかった時点で、一生働く暮らしになる。
たとえ侍女になれたとしてもそうだろう。結婚相手はほぼ使用人同士なのだから。
 
そんな時、侯爵家の嫡男の愛人になれたら?庶子を産んだら?
しかも結婚はまだ。婚約が解消されれば正妻になれるかも?

そんな可能性をほのめかされると、行動に移す貴族もいるのだ。


「お前、公爵籍に入れた息子、レイフォードだったか?アミーナと婚約させる気だろう?」

 
アナレージュは驚いた。兄が気づいていたことに。


「ルースと婚約解消してもアミーナの次の婚約者をどうするかが悩みの種だった。年齢的に合う嫡男はもうほとんどいないから近隣国で探そうかとも思った。
だが、アミーナと共にレーゲン公爵家に行った侍女から、お前の息子になったレイフォードとアミーナがお茶を飲んだと聞いた。あぁ、お前が仕組んだのか、と。アミーナが明るくなったから上手くいったとわかった。」


知った上で、まだ婚約解消に踏み切らなかったのは慰謝料が惜しいだけでなく、ルースの次の相手が決まらないとアミーナが危険なためか。


「だが、ルースに襲われたアミーナは衰弱して倒れるまでになってしまった。
しかし、ここまで待ったんだ。ルースが貴族令嬢を妊娠させれば婚約解消できる。あと少し待つ。
妊娠しなくても、言い訳させないための証拠は揃えている。あと半年。それを期限にする。」

「あと半年ね。わかったわ。」


アナレージュは、兄の気持ちが大きく動いたのはレイフォードがいることを知ったからだろうと思った。

兄は甘くない。

次の相手が見つからなければ、ルースとの婚約を解消しようとは思っていなかったはずだ。

アミーナのためを思って婚約解消に向けて動いていたように見せかけたが、それはいざという時の交渉ネタといったところだったのだろう。

アナレージュはそう思ったが、気づかないフリをした。

 


 
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