遺言による望まない婚約を解消した次は契約結婚です

しゃーりん

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ルークは同じクラスの侯爵家の三男である。 
第一王子と仲が良い。将来は側近になるのだろうと言われている。
調べてくれると言っていたが、暇なのだろうか?いや、そんなわけがない。
何か理由があるのか…クラリスのために動く理由がわからなかった。
お願いしたわけではないが、もしも婚約解消の糸口でも見つけてくれるならば…対価が必要だろう。
善意からという行動理由は信じられないからである。


クラリスがそんなことを考えている間に伯爵邸に着いた。

「お帰りなさいませ。」

「ただいま。お父様は執務室かしら?」

「そうでございますが、旦那様にご用がおありですか?」

「そうね。話がしたいと伝えてくれる?着替えて伺うわ。」

「かしこまりました。」


クラリスは家着に着替え、父の執務室を訪ねた。

「お父様、クラリスです。」

「入れ。」

「失礼します。お話があります。」

「…座れ。」

「ディランのことです。
 今度の王家の舞踏会に参加するなと言われました。
 自分は恋人と参加するそうです。
 婚約者をエスコートする気もないのに結婚しなければならないのですか?
 私とは白い結婚で、愛人の子をこの伯爵家の跡継ぎにすると言われました。
 ディランの、侯爵家の乗っ取りをこのまま見過ごすのですか?
 お父様は私の幸せを願ってはくれないのですか?」

「……すまない。お前には悪いと思ってる。
 だが、姉上が…侯爵夫人が怖いんだ。」

「いつもそれです。理由を教えてください。」

「…あの人は、この伯爵家を継ぐ気でいたんだ。
 好きになった人が次男でね。その人と結婚すると平民になってしまう。
 だから、自分がこの伯爵家の跡継ぎになりその人と結婚するから、私には婿入り先を探せと。
 10歳の頃から言われ続けた。父は姉の言うことなど無視していた。
 しばらくして父が姉に縁談を持ってきた。姉は激怒した。
 自分がこの伯爵家を継ぐのだと。私もそれを認めて居ると。
 …姉の圧に負けて、『わかった』と頷いたことがあった。
 しかし、侯爵家との縁談で解消できないと父に言われた。
 姉の思い人は事情を理解して姉の元を去り、辺境で騎士見習いになって山賊に殺された。
 私のせいだと何度も責められた。私が父に跡継ぎにならない意思を示さなかったからだと。
 姉の思い人を殺したのは私だと。12歳だった私は姉が恐ろしかった。

 2年後、姉は侯爵家に嫁いだ。…父と私を恨んだまま。

 更に10年が経った時、姉が伯爵家を訪れた。父が呼んだらしい。
 二人で話をした後、部屋から出てきた姉が言った。
 『父が過去を悔いて自殺した。外聞が悪いから病気で処理するように』と。
 父は毒を飲んだようだった。真相はわからない。だが、私は姉がやったと思ってる。
 言う通りにしないと次はお前の番だと。

 ディランとお前の婚約は、侯爵家と伯爵家。
 『侯爵家からの縁談は断れないだろう?』と姉自身になぞらえているんだ。

 そしてディランの子をこの伯爵家の跡継ぎにして伯爵家を取り返す気なんだろう。」


……随分と重たい理由を聞かされ、クラリスは言葉がなかなか出てこなかった。
しかし、思い切って言った。

「お父様の事情はわかりました。
 ですが、これは私と伯爵家に関わる問題でもあるのです。
 私は婚約解消を諦めたくありません。
 何か方法がないか、足掻いてみたいのです。
 お許しくださいますか?」

「お前の人生を狂わせてすまないな。
 私は何もできない。動けない。
 確証はないが姉側の人物がこの伯爵家にいるだろう。
 すぐに始末されるだろう。
 
 足掻くなら気をつけろ。
 怖くなったらこの家から逃げろ。
 平民になってもいい。
 他の貴族に嫁いでもいい。
 そうなれば、伯爵家はディランが継ぐだけのことだ。
 アイツが継げば、伯爵領は衰退しそうだがな。

 好きなように生きろ。」


「ありがとうございます。
 逃げてもいいって言ってくれて、気が楽になりました。」

「私もお前に話して気が楽になったよ。手伝ってくれそうな人はいるのか?」

「ええ。多分?ですけど。」



クラリスは、何があろうとディランとの婚約を解消しようと心に決めた。








 
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