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しおりを挟む契約結婚の理由はこうである。
ルークは第一王子殿下の側近になる予定である。
三男で継ぐ家もないので、独身のまま仕えるつもりであった。
しかし、側近が独身であるのは慣例上ほとんどないのである。
知らぬ間に縁談が進み、仕方なく結婚した者もいる。
既成事実に持ち込まれ、結婚に至った例もある。
籍を入れただけの結婚もある。
とにかく、独身だと周りが放っておいてくれないらしい。
継ぐ家もないルークが跡継ぎではない令嬢と結婚すると、爵位がある者から見下される。
側近が見下されると体裁が良くないので、領地なし爵位を与えられることになる。
今度はそれを見越して、令嬢がやってくる。
その類の令嬢は、王都で過ごし楽しくお金をどんどん使うのだ。
そして寂しくなって浮気する。
とにかく結婚するまで落ち着かないのである。
学生のうちに、何とか自分に合いそうな令嬢を探さねば…
そこでクラリスである。
クラリスは伯爵家の跡継ぎで、結婚後も自分で領地を管理しようと伯爵から学んでいる。
手伝いはしても、婿が全面的に協力しなくても良い。
もちろん、まだまだ伯爵が元気なうちはクラリスは王都で過ごせる。
王都にいるその間にクラリスとの間に子を設ける。伯爵家の跡継ぎが必要だ。
クラリスと子が王都にいる時は、なるべく子育てにも関わる。
もちろん、浮気はしない。
とにかく、第一王子が王太子になり国王になる。そして退位するまで側近でいるのだ。
その間はずっと王都にいることになるだろう。
寂しいと文句を言われるのも浪費癖も浮気も困るのである。
領地と領民を大切に思っているクラリスなら、夫が側にいない時でも自分の役割を果たす。
そう思い、契約結婚に至った。
伯爵はルークの話を聞き、複雑だった。
ディランみたいに蔑ろにされることを思えば遥かに良い。
しかし、別居生活が長くなるかもしれない。…自分も別居中だが。
政略結婚で割り切っている夫婦も多いが。
自分が少しでも長く伯爵として仕事を頑張るしかないか。と気持ちを新たにした。
「クラリス、お前は納得しているんだな?」
「はい。もう学園の卒業も近い私には満足のいく縁談はないでしょう。
何かを妥協しなければなりません。
焦って結婚した人が伯爵家に害のある方だったと後悔することを思えば、良い契約だと思います。」
「クラリス嬢を決して蔑ろにする気はありません。
もちろん、容姿も性格も私にとって好ましいと思っているからこそ申し出ました。
満足のいく婿とは言えないでしょうが、よろしくお願いいたします。」
そう言って頭を下げたルークに伯爵は誠実さを感じた。
「わかりました。後日正式に婚約を交しましょう。」
「ありがとうございます。父に伝えます。」
そう言ってルークは伯爵家を後にした。
「……慌ただしい一日だったな。」
「そうね。疲れたわ。
お父様、ごめんなさい。勝手にルーク様と話を進めて。」
「そのお陰で婚約が白紙になったのだから。殿下は彼に期待しているのだろう。」
「そう言えば、侯爵様の弱み?を握ったから婚約解消が上手くいくはずって言ってたわ。
侯爵様が遅れて入って来られたのはルーク様たちがきっと脅したからだったのね。」
「侯爵夫人と会うことも、もうないだろう。迷惑かけてすまなかったな。
お前が結婚したら、ここに住むか?
私はほとんどの時間を領地で過ごそうと思う。お前の母と過ごしたいからな。」
「そうね。お父様は私のためにここにいてくれたものね。
学園を卒業するのももうすぐだわ。
あとは、婚約して結婚して。未来が明るく見えてきたわ!」
嬉しくなり、二人で笑い合った。
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