46 / 46
46.
しおりを挟むディーゼルとベルが入籍したその夜、二人は再び結ばれた。
やはり、心の通い合った相手との閨事は、格別だ。
ずっと触れていたい、気持ちよくなってほしいと思うばかりだ。
娼婦は、性欲処理。
前妻アイリスを抱いていた時は、あれは単なる子作り作業というものでしかなかったとディーゼルは思った。
「ベル、二~三年は避妊しないか?」
ひとり占めしたい。妊娠すると抱けなくなるから。
「でも、私ももうすぐ21歳になりますし、もう一人産むなら早い方がいいと思いませんか?」
「そうなんだが、この時間がなくなってしまう。」
まだまだ愛し足りないのに、繋がれなくなるのはつらい。
「では、半年ではどうですか?不妊の嫁だと思われたくないですし、ディーゼル様にも不妊を疑う目がまた向くかもしれませんし、そうなった場合、カイルの出自を疑われるかもしれませんし。」
「あ……確かにそうだな。すまない、自分のことしか考えていなかった。」
そうだった。
カイルがいるから、と思っても、なかなか子供ができなければ噂をされることになる。
ベルとカイルに疑いの目を向けられるのは許せない。
「半年。そうだな。半年だけ、私に独占させてくれ。」
「ふふ。出産が終われば、またこの時間はディーゼル様と二人だけのものです。」
そうだ。
ベルはもう妻なのだから、出産の義務を果たせば、夜のこの時間はディーゼルだけのものだ。
ベルとなら、体を繋げない日であっても一緒に眠りたい。
侍女カレンはベルの侍女になった。
ベルは友人を使用人として接したくないと言っていたが、カレンが側にいたいと言ったのだ。
乳母になれたら、という思いもあるらしく、ディーゼルに誰か紹介しろとと頼んできた。
まぁ、夫婦で仕えてくれるのも有りだなと思い、カレンと合いそうな男を探してやることにした。
ベルのアトリエは屋敷内に作った。
前に住んでいた家のアトリエに通うと言っていたが、安全性が低いため警備に十人は必要だと言うと諦めてくれた。
あの家は、デリックが壊した玄関扉を修理し、飾ってあった絵は全て侯爵家で保管し、以前の画家を目指す者のアトリエとして使用することになった。
家の維持管理は、あの家でベルと共に住んでいた使用人夫婦が引き続き行ってくれる。
前妻アイリスは、離婚したことも、エリオットに振られたことも、何も気にしていないように振る舞い、ガレット公爵に『後妻になってあげる』と屋敷に乗り込んだが、断られた。
亡き妻の侍女だった女性がずっと子供たちの側にいて、再婚に失敗した父親に子供たちが望んだのは、その侍女が母になってくれることだったという。
事実婚状態だったが、アイリスみたいに公爵夫人になりたい女が他にも乗り込んでくるかもしれないため、入籍することにしたらしい。
これで、アイリスが再婚できそうな貴族家はなくなった。
噂によれば、行き場を失くしたことで暴飲暴食をして激太りしているらしい。
そのため、社交界でアイリスの姿を見ることはなくなり、ディーゼルが再婚したベルとの間に子供がいたことが知られても何も言ってくることはなかった。
結婚して半年後、避妊を止めるとベルはすぐに妊娠した。
とことん、相性がいいらしい。
結局ベルは、カイルを含めて三人の子を産んだ。
ディーゼルの妻として、子供たちの母として、画家ソレイユとして。
たった一夜の浮気から四年後、ベルはディーゼルを笑顔にしてくれる存在となった。
ベルが描いてくれた家族の肖像画を見て、思わず微笑む。
幸せが溢れている、と。
<終わり>
2,382
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
二年間の花嫁
柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。
公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。
二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。
それでも構わなかった。
たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。
けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。
この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。
彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。
やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。
期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。
――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる