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ブルーム公爵家から戻り、マーシャリーは父に言った。
「デイヴィスに報告していい?」
「会うのはダメだ。手紙にしなさい。一度だけ許す。」
「でもっ!」
「マーシャリー、お前は公爵と結婚し離婚するまで弁えなければならない。デイヴィスと会うことはアイツの立場を追い込むことになるぞ。」
「どういうこと?」
「公爵との結婚が離婚前提だということは口にするべきことではないとわかっているよな?元婚約者がうちに何度も出入りしていたり手紙のやり取りをしていると噂になれば、公爵はデイヴィスを社交界から消すだろう。」
「そんな、ひどいわ。」
「いや、当然だ、公爵と男爵家の息子だぞ?貴族の一番上と一番下だ。一声で潰されてもおかしくはない。だから、デイヴィスと再婚したいなら、それまで絶対に関わりを持つんじゃない。わかったか?」
「……わかったわ。」
フィリップと結婚している間も手紙くらいはいいだろうと思ったけれど、デイヴィスのためなら我慢する。
それから、マーシャリーはデイヴィスに手紙を書いた。
公爵が離婚前提に同意したこと。
そのことは誰にも言ってはいけないこと。
子供は二人産まなければならないこと。
書いた手紙は父に渡し、父が確認した後、父の名で、デイヴィスの父テープラー男爵宛に送られた。
翌日、同じように父親同士を経由して、デイヴィスからの手紙がマーシャリーに届けられた。
『わかった。待っている』
デイヴィスは待っていてくれる。
マーシャリーは嬉しくて泣いた。
一日も早く、デイヴィスの元に戻る。
その思いが、フィリップとの結婚生活の間のマーシャリーの支えになると思っていた。
ひと月を待たずに、マーシャリーはフィリップと入籍した。
結婚式を挙げるわけではないのに時間が過ぎるのがもったいないと思ったからだった。
「よろしくお願いします。」
フィリップはチラッとマーシャリーを見た。
「ああ。」
そう言っただけで書類に目を戻した。
結婚した相手にそれだけ?
他に何か言うことはないの?
「あのっ!」
「なんだ?私は忙しい。お前のことは侍女に任せてある。侍女に聞け。」
そう言って、出て行けというように手を振った。
何か言いたい。
けれど、マーシャリーも何を言いたいかわからなかった。
ただ、腹が立ったので、見えないだろうと思ってアッカンベーをすると、横から笑い声が聞こえた。
「失礼しました。私はカイドと申します。お見知りおきを。」
他に人がいたことを忘れていた。
マーシャリーは自分が子供のようなふるまいをしたことが恥ずかしくなり、アタフタとカイドに挨拶をした後、執務室を出て行った。
その後、執務室の中でカイドが爆笑し、フィリップが頭を痛めていたことをマーシャリーは知らない。
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