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しおりを挟む新学期、リリスの姿はなかった。
さすがに、デビューの日に暴露した内容がひどすぎて貴族令嬢として過ごしていくにも白い目で見られ続けることになるためだろう。
休みの間に、リリスの両親からは謝罪があった。
慰謝料を請求してもおかしくはない出来事だけど、大きな勘違いで恥をかいたのはリリス。
今後、リリスが同じような言いがかりやクレージュに迷惑をかけるようなことをしない限りは慰謝料は必要ないということになった。
その時は、まだリリスの今後を悩んでいるようなことをご両親は言っていたけれど、退学させたということは貴族籍を抜いたのかもしれない。
一度は友人になった子だから、ひどい目にあってほしいとまでは思わない。
持前の明るさで楽しく逞しく生きて行ってくれればいい。
そう思っていた。………が、リリスの逞しさは図々しいというか、厚かましいというか、ふてぶてしいというか。
そんな印象になるのは少し先のこと。
数か月後、学園の正門の警備から呼び出しがあった。
リリスという女性がクレージュを呼んでいるということだった。
怖いものみたさと言いながらついたきたリナは、おそらく何かあれば証言者というか、守ってくれるつもりだったと思う。
だけど、リリスがクレージュを呼びだしたのは罵声や文句のためではなく、呆気に取られるような内容だった。
「久しぶり!お昼休みだから会えるかなって呼び出してもらっちゃった。
私ね、お父様に怒られて平民になったの。修道院とどっちがいいかなんて聞くのよ?ひどいよね。
もうすぐ18歳になるロメオ様と結婚することになって、あ、ロメオ様も平民になるんだけど。
ロメオ様は知り合いの商会で働くことになって、私は今は使用人に家事を習ってるの。
家事は全然上達しないけど。面倒よね。
使用人を雇いたいってロメオ様に言ったら、私も働くように言われたの。
2人で働けば、通いの家政婦が雇えるからって。
それでね、時間がある時に家で内職すればいいって、ハンカチを沢山預かったの。
刺繍が得意なんだったら、それが仕事にできて収入になるからって。
ロメオ様は私が刺繍が得意だって思ったままなの。
だけど、私って苦手でしょ?あのハンカチの刺繍はクレージュがしたものだったから。
だからね、クレージュが刺繍して、それを私がしたってことにすればいいと思うの。
ハンカチを渡すから刺繍したら送り返してくれる?」
そう言って、ハンカチが入っているであろう袋を押し付けようとするリリスに呆れると共に憐みを感じてしまった。
と言っても、引き受けるわけにはいかない。
「リリス、私は刺繍を仕事にするほど暇な時間はないわ。
それに、あなたの収入のために私が働かなければならない理由もない。
あなたと友人だった時間は確かにあった。
だけど、それは過去の話で、その関係を壊したのもリリスよね。
あなたは平民として、これから仕事をしたり家事をしたりして生活していくの。
それは誰かに仕事を押し付けて楽に稼ぐことじゃないわ。
自分たちの食事や住居、服を自分たちが稼いだお金で買う生活になるの。
刺繍ができないならできないとロメオ様に言いなさい。
そして、自分ができる仕事を見つけるの。
今までみたいに誰かに頼ったり助けられたりする相手はいなくなるわ。
ロメオ様に頼り切ったら共倒れしてしまうわよ。
結婚して2人で生きていくのなら、あなたも自立しなさい。
お互いに支え合わないといけないわ。」
貴族令嬢から平民になることは、おそらく想像以上に厳しいことだと思う。
だけどリリスの両親は、すぐに放り出さずに家事を学ばせようとしていることから、自立して困らない生活を送らせようとしているとわかる。
ロメオ様の方もそう。商会で仕事ができるように頼んだのはブラック伯爵だと思う。
家政婦を雇えばいくら必要か、刺繍のハンカチがいくらで買い取ってもらえるか。
リリスのために、ロメオ様の方でもいろいろと調べたのだと思う。
お互いが実家から出て結婚生活を始めれば、聞くことも調べることも頼る相手がいなくなる。
頼れる相手がいる今のうちに親たちもロメオ様も環境を整えようとしているというのに……
リリスの顔を見て、ユナが言った。
「リリス、あなた今、クレージュのことをケチだとか口うるさいとか思ったでしょ。
顔に出てるわ。
クレージュは何一つ間違ったことは言ってない。私も同じことを思ってる。
現実逃避していないで、自分のことは自分でする。自分にできることを探しなさい。」
クレージュだけでなくユナにまで叱られて、リリスはハンカチの袋を持って走り去った。
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