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しおりを挟む学園には一部の者が陰で『冷徹な姉』と『健気な妹』と呼んでいる二人がいる。
その『冷徹な姉』と言われているパトリシアの元に、『健気な妹』と言われているイゾベラが、少し離れた場所からパトリシアの名前を呼びながら駆けてきた。
「パトリシアお姉様、待ってください。私も一緒に……」
パトリシアはピタリと足を止めて言った。
「何度も言うけれど、私をお姉様と呼ぶのはやめて。」
「わずか二日違いでも、私には大切な姉だわ!」
パトリシアとイゾベラの誕生日が二日しか違わないのは事実である。
しかし、それを大声で言う必要があるだろうか。
イゾベラに付き合っていては時間の無駄なので会話を切る。
「イゾベラ、あなたはあちらで私とは一緒の方向ではないわ。」
「ひ、ひどいわ。私のクラスを馬鹿にしているのね!」
どこにイゾベラのクラスを馬鹿にした言葉があっただろうか。
パトリシアは、いつものことだと軽くため息をついて歩き出した。
後ろではイゾベラが涙を流しながら大きな独り言を言っている。
「お姉様みたいに頭のいいクラスじゃないけれど、みんな優しいもの。お姉様が冷たいのはもっと人の優しさに触れるべきなんだわ。お姉様が笑顔になってくれるように、私、もっと頑張る!」
イゾベラの声が大きいせいで、パトリシアの言葉が曲解されて周りに伝わるのもいつものこと。
この後、イゾベラのクラスメイトからは睨まれることになるのもいつのものこと。
こんなことが始まったのは、三か月前にパトリシアがダリス侯爵家次男のリチャードと婚約してからのことだった。
三か月前……
「パトリシア、お前にダリス侯爵家から縁談の話が来た。」
「ダリス侯爵家?まさか、リチャード様ですか?お父様、私には恋人がいると断って下さったのですよね?」
「……いや、すまない。侯爵が強引で、断り切れなかった。まだ婚約していないのだから、と。」
パトリシアは泣きたくなった。
近々、婚約したい相手を父と会わせるつもりでいたのだ。
「リチャード様って、侯爵令息でありながら最終学年は一番下のクラスに落ちるそうですよ。」
要するに、頭が悪い。
「一番下ということは、イゾベラと一緒のクラスになるのか。」
イゾベラが一番下のクラスなのは入学当初から変わることはない。
彼女も、頭が悪い。
「リチャード様は美形だけれど結婚相手にはしたくないって皆が倦厭しているくらいなのですよ。」
おそらく、どこからも縁談を断られたに違いない。
ハルモニア伯爵である父は、押しに弱いところがあるため、ダリス侯爵は断る隙を与えなかったのだろう。
「顔合わせの時にイゾベラも同席させていいでしょうか?」
「あの子を?ダリス侯爵はイゾベラでは認めないぞ?」
「わかっています。でも、リチャード様の好みは可愛い子だと思いますので。」
パトリシアとイゾベラは容姿が全く違う。
リチャードのような男は、可愛くてあざとい女に目を奪われるものだから。
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