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しおりを挟む屋敷に帰ると、イゾベラが話しかけてきた。
「聞いて、パトリシア。リチャード様が私に気づいて話しかけてくれたのよ。『新しいクラスで知り合いがいるか不安だったが君がいてくれて嬉しい』だって。休憩時間も一緒に過ごしたわ。」
「そう。」
イゾベラと同じクラスで嬉しいだなんて、リチャードには高位貴族のプライドはないらしい。
そして思った通り、イゾベラはリチャードに接近してくれている。
「そうって、それだけ?パトリシアは何とも思わないの?」
「別に?」
イザベラが望んでいる反応がイマイチわからない。
『私の婚約者と親しくしないで』とパトリシアが怒ることを望んでいるのか。
下のクラスに落ちた婚約者を批判するような言葉を言わせたいのか。
「何をしているの?」
そう言ったのはイゾベラでもパトリシアでもなかった。
継母リーシェが少し険しい顔をしてこちらにやってきた。
「イゾベラ、何度言えばわかるの?パトリシアと呼び捨てにしてはいけないわ。」
「はーい。ごめんなさい。でも、私をイゾベラと呼ばないでって何度も言ってるのにお母様も直してくれないわ。」
「あなたの名前はイゾベラで間違っていないもの。」
「こんな可愛くない名前、私には似合わない。ベラの方がまだマシだわ。」
そう言って、パトリシアとリーシェから逃げて行った。
「ごめんなさいね、パトリシア。」
「気にしていませんから。」
継母リーシェがイゾベラのことで肩身の狭い思いをしているのはわかっていた。
あまりにイゾベラの態度が失敬であるため、18歳までの養育ではなく、15歳でメイドとして働かせるとリーシェは言ったのだが、パトリシアがあと三年くらい構わないと言ったのだ。
しかし、それはリーシェにとって心労が重なるだけだったのかもしれない。
イゾベラは自分の名前が嫌いで、ベラと呼んでほしいというが、ここでは誰も呼ばない。
クラスメイトにそう呼ばせているくらい。
イゾベラは、ハルモニア伯爵である父のことは『伯爵様』と呼ぶが、リーシェのことは『お母様』と呼ぶことを止めない。
『奥様』と呼ばせるところを、平民であっても姪にそう呼ばれることに少し抵抗があったようで、パトリシアが『お継母様』と呼ぶのを真似をして『お母様』と呼ぶイゾベラを正さなかった。
しかし、学園に入った頃からせめて『叔母様』にしなさいと言っても、『お母様』と呼ぶのだ。
そう呼ぶことで、イゾベラは伯爵家の一員になったように思いたいのだろう。
パトリシアと話す時だけ、イゾベラは呼び捨てをしてくるが、学園を卒業するまでは同居人として許してあげようと思っているだけで、卒業後は許すつもりはない。
次期ハルモニア伯爵と平民なのだ。
誕生日が二日違いで生後一年にも満たない頃から一緒に暮らしていても、姉妹のように仲が良かったというわけでもないし、身内面されたくもない。
もっと謙虚な性格であれば、侍女として側におく将来もあったかもしれないが、物心ついた頃から彼女は『図々しい子』という印象しかないのだから。
イゾベラは、パトリシアがこれまであまり口うるさく注意してこなかったことから、今後も上手くあしらって居座るつもりでいる。
つまり、パトリシアを舐めているのだが、ただ相手にされていないだけだとは気づいていないのだ。
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