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しおりを挟むリチャードが父と屋敷に戻ると、門番が困ったように言った。
「そちらにいる女性がリチャード様の婚約者だから中に入れろとおっしゃるのですが、身元が確認できなくてお待ちいただいている次第でして。」
女性とはイゾベラのことだった。
あれからリチャードは教室に戻ることなく家に帰り、パトリシアに婚約解消を告げてしまったことを父に報告した。
父はハルモニア伯爵が詳細を知る前に、誤解があったのだとハルモニア伯爵を丸め込もうとしたが、既にパトリシアから伝わっていたらしく、伯爵を説得しているところにパトリシアが帰宅した。
パトリシアはこれまでリチャードとの交流がなかったことも話し、父は婚約解消を認めてしまった。
帰りの馬車の中で、リチャードは父に叱られた。
何故、パトリシアを誘わなかったのか、と。
だが、リチャードは納得いかなかった。
侯爵令息である自分が、どうして伯爵令嬢のパトリシアに媚びなければならないのか、と。
しかし父は、媚びるという問題ではなく、婚約した男のマナーであり常識であると言った。
そんなこと、誰からも教わっていなかった。
だが、確かに父からは、『婚約を記念して何か贈り物をしておけよ』とか『デートで観劇に行くならチケットを取ってやるぞ』と言われた覚えはある。
そして、イゾベラのことも、伯爵家とは関係ないとは聞いたが、もっとちゃんと教えてくれていればよかったのだ。
それなら、イゾベラの言うことを信じなかったのに。
あぁ、だが、イゾベラと結婚すると確かに口にしてしまった。
彼女はリチャードを頼るために、ここに来ているのだ。
ハルモニア伯爵家が纏めた彼女の私物を携えて、ここまで歩いて来たのだろうか。
馬車から見える彼女の姿を見て狼狽えた。
「あ、あの、父上。イゾベラをどうすれば……」
リチャードでは対処しきれない。
「……お前、あの娘と一緒になりたいのか?」
リチャードは首を横に振った。
あんな嘘つき女、もう信じられない。
「なら無視していればいい。あの娘のせいでお前は誤解したんだと言い訳はたつ。」
「ですが、カトリーナ王女殿下の前で結婚すると口にしてしまったので、イゾベラを見捨てたことが知られてしまえば、ダリス侯爵家に影響はないでしょうか?」
イゾベラと結婚などしたくない。
だが、勘違いだったとはいえ、求婚した女性を捨ててしまっては、リチャードの印象が悪くなる。
つまり、ダリス侯爵家にも非難の目が向くかもしれない。
そんな強引な連想で父を頼るしか、リチャードは対処できないのだ。
「……まぁ、一理あるな。ひとまず、あの娘の身柄は引き受けた方が無難だろう。その後、お前と破局して出て行ったということにすれば問題ない。」
父は門番に、イゾベラを敷地内の別邸に案内するように言った。
「父上、イゾベラを別邸に住まわせるのですか?」
「使用人棟だとお前の婚約者なのに扱いがひどいと言いそうで面倒だ。あの娘にはそのうち自主的に出て行ってもらわなければならないから、存在を知るのは少人数の方がいい。」
父には何か考えがあるようだ。
リチャードには何もできないから、任せるしかなかった。
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