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しおりを挟むダリス侯爵家の別邸で、イゾベラは一人だった。
案内された後、誰も来ない。
「どういうこと?なんか、ここ、ちょっと埃っぽいし掃除されてないんじゃない?」
ここ数か月間は使用されていなかったような状態だった。
イゾベラが知るはずもないが、この別邸は建て替えを検討中のため放置されていたものである。
リチャードの結婚相手が爵位の継げない貴族令嬢になった場合、建て替えて住まわせる話もあったのだ。
パトリシアと婚約したことで建て替えの話も中止になったが、婚約解消してしまったので再度検討されるだろう。
「……この絵とか、燭台とか、売れるかしら。無くなっても気づかないだろうし。」
「それは犯罪だよ。」
呟いたことに返事があり、イゾベラはびっくりした。
「誰?」
「俺?リチャードの従兄。エルレイズだ。君は?」
「私は、イゾベラといいます。ベラと呼んでください。リチャード様の婚約者になるはずなのに、ここに案内されてしまって、誰もいなくて困っているんです。助けてください。」
本邸に案内してほしい。
そう思っていたが、エルレイズは首を傾げた。
「君、平民だろう?リチャードと結婚なんてできるわけがないじゃないか。あいつは頭が悪いから文官にはなれないし、汗をかくのが嫌いだから騎士にもなれない。だから自立できない。
君との結婚を許すなら侯爵家から出ることになるだろうな。君を養えるような男じゃないから、君が養わないといけなくなるけど、その覚悟はあるのか?」
「え……、私が?」
「ああ。どうやって稼ぐつもりだ?メイドになるのか?それとも何か取柄があるのか?」
侍女ならまだしも、メイドになんてなりたくない。
取柄なんて何もない。
それに、リチャードを養うなんて、絶対に嫌だ。
「でも私、リチャード様に頼らないと行くところもなくて。住んでいたところから追い出されて、お金もないし、これからどうすればいいのか……」
リチャードよりも、このエルレイズという男の方が役に立つ気がした。
「うーん。住む場所と働く場所に困っているってことか。住み込みのところとかもあるけど、どういうのがいいの?」
「……短い時間で楽にお金を手にできたら。」
働きたくはない。
それでも、ひとまず働かざるを得ないらしい。
学園に行っても、もう誰も相手にしてくれないし、授業もわからないから意味がないし。
愛人になることしか考えてなかったから、何もできないし。
「あっ!貴族の愛人って、紹介してもらえます?」
「ははっ!愛人かぁ。そうだなぁ。すぐにってわけにはいかないけれど、働いていたら愛人にしてもらえそうな場所はあるよ。しかも、短い時間で楽に金を稼げるし、住み込みだし。」
「そこがいいです!紹介してください!」
「ははは。面白いね、君。リチャードのことはもういいのかい?」
エルレイズの言う通り、貴族のリチャードとの結婚は難しいし、自分が養うことになるのも困る。
むしろ、責任を取ってリチャードを押し付けられれば、逃げられなくなる。
今ならまだ、逃げられるだろう。
「はい。ご迷惑はかけられないので。お別れします。」
付き合っていたわけでもないけれど。
別にリチャードを愛していたわけでもないイゾベラは、楽に金を稼げるのであればそれでよかった。
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