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しおりを挟むリチャードの従兄と言ったエルレイズは、すぐにイゾベラを連れ出してくれるのかと思えば、引き出しを開けたりして何かを探していた。
「あったあった。俺が勝手に連れ出したと怒られたら困るから、リチャードにお別れの手紙を書いてくれる?」
「手紙、ですか。わかりました。」
差し出されたレターセットとペンを受け取り、イゾベラは、『リチャードの輝かしい貴族の暮らしをイゾベラが奪うわけにはいかないため、身を引く』というような内容の手紙を書いた。
「うん。いいね。これは渡しておくよ。じゃあ行こうか。」
「よろしくお願いします。」
別邸を出ると、馬車が止まっていた。
エルレイズが乗ってここまで来たらしい。
離れたところに見える本邸に、リチャードがいるはず。
しかし、イゾベラが足を踏み入れることは許されなかったのだと、身分差を実感した。
「平民は貴族の妻にはなれない。愛人になるしか、一緒にはなれなかったのよ。」
いつの間にか、イゾベラは悲劇の主人公になったような気持ちでいた。
イゾベラの呟きに、近くにいたエルレイズは吹き出しそうになっていたのだが気づかなかった。
こうして、ハルモニア伯爵家の次にダリス侯爵家からも出ることになったイゾベラが向かった先は、王都の中心近くにある割と綺麗な建物の前だった。
「ここは、何をするところなのですか?」
「ん?君、意外と世間慣れしていないんだな。まぁ、だから俺に着いて来たのかもしれないけど。」
エルレイズと共に建物の横手に回り、中に入ると応接室のようなところがあった。
「あら。ようこそ。ふうん。なかなか可愛い子ね。売りに?」
「いや、借金はない。ただの平民。彼女は、住み込みで短い時間で楽して稼げて、愛人になれるかもしれない仕事を探していたから連れて来たんだ。すごくない?こんなに条件に合う仕事ってここしかないじゃないか。」
「ふふふ。面白い子ね。経験は?」
エルレイズと女性の会話から、イゾベラはここが娼館なのではないかと気づいた。
「え……、ここって娼館?私に娼婦になれっていうの?」
冗談じゃない。
そんな、女の底辺みたいな仕事、私には似合わない。
「君にはいいと思うよ。借金の形に売られるわけじゃないから、人数や相手は可能な限り選べるし、愛人になりたいのであれば男を虜にする技を磨く必要があるから、ここはピッタリだ。」
「え……?純潔の方が愛人にしてもらえるんじゃなくて?」
男は妻や愛人に処女性を求めるものじゃないの?
「貴族なら妻は純潔が当たり前だけど、愛人に求めるのは積極的な奉仕の場合が多いよ。そうじゃないとつまらないじゃないか。妻が積極的なら愛人なんて必要ないんだから。」
愛人に求めるのは積極的な奉仕?
「それに、君の努力次第で相手の男のレベルは高くなる。つまり、君が愛人にする男を選べる側になれるかもしれない。その可愛い顔は多少のアドバンテージもあるし、有名になれる可能性はあるよ。」
有名に?
私の体を男たちが取り合いにしたりして?
借金がなければ、底辺の仕事じゃないのね。
そうよね。貴族の男たちを相手にするんだから、身の回りの世話もしてもらえるんだわ。
……いいかもしれない。
メイドみたいに誰かにこき使われる暮らしをするよりも、娼婦で成り上がるのも有りね。
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