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しおりを挟むエルレイズは、イゾベラが娼婦として雇用契約を結ぶのを見届けてから帰った。
去り際に、イゾベラから『いつかお客として来てね』と言われて『そのうちな』と返事をした。
あの娘は楽観主義だな、と苦笑しながらダリス侯爵家へと戻った。
「エーリック殿、あの娘はどうなった?」
ダリス侯爵は戻ってきたエーリックに聞いてきた。
エルレイズは偽名で、リチャードの従兄というのも嘘だ。
「あの娘は『住み込みで短い時間で楽して稼げて、愛人になれるかもしれない仕事』を希望したので、こちらの思い通りに娼館へとご案内いたしましたよ。娼婦になることに抵抗はあったようですが、愛人になりたいのなら閨技を学んだ方がいいと言えば契約書にサインをしました。」
「こちらに落ち度はないな?」
「ええ。ああ、リチャード様への別れの手紙もこちらに。問題ありません。」
エーリックはイゾベラに書かせた手紙を渡した。
ダリス侯爵は内容を検め、満足そうにうなずいた。
「助かった。お礼に先ほどの商品を全部買わせてもらおう。」
「それはそれは。お買い上げ、まことにありがとうございます。」
エーリックは商人だ。
時にはイゾベラのように、居てもらっては困る人物などを相応しい場所に連れて行く依頼を受けることもある。仕事柄、顔が広いからだ。
ただし、人殺しや遺体の処理はお断りだが。
今回は楽な依頼だった。
嫌がる者に娼婦になれと言うのはあまり好ましくないが、愛人志望だったイゾベラを諭すのは簡単だった。
イゾベラは雇用契約書をちゃんと読んでいなかったようだが、あれにサインをした時点から、彼女には借金が発生している。
まず、与えられる部屋代は一年先払いであるため、手持ちのないあの娘は借金を背負ったのだ。
食事代もかかるし、娼婦として客を取るようになると、衣服というか下着代にも金がかかる。
下着は高価な物ほど繊細であるため客に破られやすく、一人の客を相手にする賃金よりも高くなる場合もあるくらいだ。
しかし、娼婦はセクシーな下着を選びがちで、それが借金を重ねていると気づかない。
それから、男への奉仕の仕方も実践で学ぶが、それも勉強代として払わなければならない。
また、先輩娼婦と客の絡みを見て学ぶことにも、勉強代が必要になる。
下働きの者に洗濯を頼むのであれば、それにも金がかかる。
何をするにも金が発生し、借金となるのだ。
娼婦が短時間で稼げるというのは嘘ではない。
ただ、それ以上に出費が多いから、借金は減るどころか増える。
イゾベラは純潔のようだったから、初物食いの客の羽振りがよければ借金は減るだろう。
だが、あの娘が自分に借金があると知るのは、外に出られないと知った時だ。
借金が無くなるまで、あるいは肩代わりしてくれる者が現れない限り、娼館から出られはしない。
あの娼館は、下位貴族か裕福な平民辺りが利用するところだ。
あそこに通う客がイゾベラの借金を払い、愛人にすることはないだろう。
成り上がり、高位貴族が利用する娼館に行けるようになるか、客と揉め事を起こし、平民でも気軽に通える娼館に落とされるかはイゾベラ次第だ。
一年後、イゾベラがどこにいるか。
それを確かめるのも、ちょっとした娯楽だった。
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