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しおりを挟むアドラー伯爵は、どうするか決めたような顔をした。
そしてフェルナンドに、挑むような目つきで言った。
「では、今からミュリエルに会ってもらいたい。」
「え……?今から、ですか?
申し訳ありませんが、実はまだ両親にご令嬢と見合いをしたいと話していないのですが。」
「やはりそうですか。昨日、アルベール殿の話を聞いてから訪問したいとの連絡を受けたので、そうだろうとは思っていたが。だが、正式な見合いとなると時間がない。」
「時間?」
「アルベール殿との見合いは四日後。おそらく、フェルナンド殿の休暇と同じでしょう。」
「……はい。」
「彼よりも先に見合いをするのであれば、今しかないとお分かりいただけたか?」
「そう、なりますね?」
まさか、アルベールとの見合いがそんなに直近だとは思っていなかった。
親同士が仲がいいとか、本人同士が顔見知りであれば、見合い当日に婚約が纏まってしまう場合もある。
しかし、アルベールが相手では、数回は会ってから決めることになるだろう。あいつは断ると言っていたが、ミュリエルを見たら気が変わるのは間違いないのだから。
アルベールとの見合いを正式に断ってからでないと次の見合いはできない。
なので、正式な見合いではないが先に顔合わせをしておいた方が有利になることは間違いない。
アルベールよりもフェルナンドの方がいいと思ってもらえるかもしれないから。
アドラー伯爵の指示で、ミュリエルが呼ばれることになった。
しかし、あの指示では見合いだと思いもしないのではないか?
単なる客人の紹介という風に、持っていくつもりのようだった。
少しして、扉がノックされた。
「お父様、ミュリエルです。」
「ああ、お入り。」
侍従が扉を開け、ミュリエルが入ってきた。
彼女はまさか客人がいるとは思わなかったのか、ひどく驚いていた。
「え……?あ、あの、騎士様?」
ん?ミュリエルはフェルナンドが誰だか知っている?
「ミュリエル、彼を知っているのか?」
アドラー伯爵の問いに、ミュリエルは頷きながら答えた。
「お父様、ほら、三年前に助けていただいた騎士様よ。」
三年前?何だ、それは?
「ああ、あの時の。フェルナンド殿だったのか。」
話が見えない。
どうやら三年前、街で知らない男に腕を掴まれて怖い思いをしていたところをフェルナンドが助けたらしい。
「ちゃんとお礼を申し上げることもできずにいて……ありがとうございました。」
「あー……うん。そうか。街ではよくあることで、申し訳ないが覚えていないようだ。」
本当に、しょっちゅうある。
特に、学園に通い始めたばかりの令嬢は、街に寄り道する楽しさを覚えるらしく、護衛もいないまま令嬢同士でフラフラして怖い目に合うのだ。
ミュリエルもそんな令嬢の一人だったのかもしれない。
「ほんの僅かな間の出来事でしたから覚えておられなくて当然かと思います。助けていただいたすぐ後にもひったくりがあって騎士様は呼ばれて向かわれました。『気をつけてさっさと帰れ』とおっしゃって、走って行かれましたから。」
ひったくりもしょっちゅうだ。
忙しさの余り、口調も厳しくなってしまったのだろう。
「すまない。ご令嬢に怒鳴りつけてしまったようで。再び怖い思いをさせてしまったのだろうか?」
「いえ、頼もしく感じました。感謝しております。」
それならよかった。
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