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しおりを挟むクロイツ公爵家に向かう馬車には、コーネリアとハリエット、それからリオネルも一緒だった。
「リオネル、いいこと?ハリエットを悲しませるようなことをするんじゃないわよ。」
「しませんよ。するわけないじゃないですか。」
コーネリアの言葉にリオネルがそう答えた。
ハリエットは、リオネルが何かしたとしても、アルバートがハリエットに犯した罪、つまり監禁・不貞・子の出生の偽り・殺人未遂より酷いことにはならないと思っていた。
それ以上となれば、もう殺害されることしかない。
殺されてしまえば、悲しむこともできなくなるのだから。
もちろん、リオネルがそんなことをするとは全く思っていないため、コーネリアの心配は不要なものだとハリエットは二人の会話を聞きながら思わず微笑んだ。
ほどなくしてクロイツ公爵家に到着し、ハリエットは公爵夫妻とジョシュア、お世話になった使用人たちに挨拶を済ませ、リオネルと共にテイラー侯爵家へと向かった。
ちなみにハリエットが着ていた服飾品も全て馬車に積み込まれ、持ち帰ることになった。
『ハリエットのために用意したハリエットのものだから』というコーネリアの主張によって。
テイラー侯爵家に向かう馬車の中、リオネルがハリエットに言った。
「ハリエット、と呼んでいいか?」
「ええ、もちろん。」
「じゃあ、ハリエット。俺と婚約してくれてとても嬉しく思う。ありがとう。」
「そんな、お礼を言われることではないわ。」
「いや、なんかさ。俺を選ぶように仕向けられていただろう?ハリエットの好みがチャールズみたいな美形かもしれないのに。」
ハリエットは自分の好みと言われてもピンとこなかった。
チャールズのことは美形だという認識はある。
ただそれは、周りと同じような感覚的な評価でしかなかった。
「もし私がチャールズ様のお顔を望んでいたら、周りの思惑がどうあれ彼を選んだと思うわ。でもそういうわけじゃないし。
私は、リオネル様が私に好意を抱いてくれていると知って嬉しく思ったの。」
「嬉しい?本当に?」
「ええ。正直に言うと、アルバート様の時は結婚してから親しくなれればいいという気持ちだったから距離感があっても気にしなかったわ。会話が続かなくても。
まさか、浮気できる人だと思っていなかったし。
結婚相手には誠実に向き合うものだと教えられてきた私にとって、リオネル様はもう私を見てくれていると思えることに安心できたの。
リオネル様なら、不満があっても口にしてくれるでしょう?私はちゃんと会話のある夫婦になりたいわ。」
アルバートに軟禁されたことで余計にそう思うようになった。
訳もわからないまま無視されるのは苦痛でしかない。
ヘンドリックは基本、無口で話しかけられたことにしか答えないところがあった。
チャールズは基本、自分の容姿と女性との駆け引きしか興味がない。
となれば、やはりリオネル一択になる。
リオネルには他に思い人がいると勘違いしていなければ、最初からリオネルを選んでいたのだから。
「ああ。不安な思いはさせないよ。」
ハリエットの手にリオネルの手が優しく重なった。
触れているのは手の甲だというのに、ハリエットは顔が熱くなるのを感じた。
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