出生の秘密は墓場まで

しゃーりん

文字の大きさ
2 / 20

2.

しおりを挟む
 

ソンブラ侯爵はザフィーロがわざと成績を落としているのではないかと発言したことで、ザフィーロが娘のクリスタとの結婚を嫌がっているのだと認めたことになった。
普通の親であれば、可愛い娘のことを嫌っている男に嫁がせることはしたくない。
しかし、娘を公爵夫人にしたいソンブラ侯爵は必死だった。


「だ、だが、クリスタはザフィーロ君を好いている。だろう?な?」


ソンブラ侯爵は隣に座るクリスタに必死に言う。


「え、ええ。もちろんです。」

「あら。自分を好きじゃないとわかっていてもクリスタ嬢はザフィーロのことを思ってくれているの?」

「はい。片想いでも、そばにいられるだけで私はとても幸せです。」 


よくもまあ、平然と嘘をつけるわね。
ザフィーロのことを、陰気だの、無口だの、男らしくないだの、ゴミカスみたいに言っていることを知っているのよ?


「どこを?」


エスメラルダはクリスタに聞いた。


「ザフィーロのどこを、あなたは好きなのかしら。」

「……優しい、ところ?」

「随分と自信なさげに答えるのね。優しい、ね。他は?」

「本をよく読んでいて真面目で物知りなところ?」

「物知りねぇ。あなたを満足させるような女性が好む知識はないと思うけど。他には?」

「……欲しいものを買ってくれるところ?」

「あぁ、あのびっくりするような値段のアクセサリーね。あまりの非常識さに驚いたわ。」


値段を告げると、ソンブラ侯爵夫妻も驚きを隠せなかった。


「っや、違うの。私は断ったのだけどザフィーロ様が似合うって、買ってくれて。」


ザフィーロが目の前にいるのに、よくそんな嘘が言えたわね?
好意がある女性に買うならともかく、さっきザフィーロの好意が自分にないと認めたでしょ?
好きでもないただの婚約者に使う金額ではないわ。


「そんなわけないじゃないの。請求書を見て何かの間違いじゃないかと思って店まで行ったわ。
ザフィーロは無理だと言ったのに、クリスタ嬢が無理やり買わせていたと聞いたわ。
15歳の誕生日プレゼントと聞いて、店の人も親に確認を取ることはしなかったと言っていたけど、あの店も非常識ね。15歳の子供には相応しくない高額な商品を決済させるなんて。
あの店には気をつけるように友人たちにも伝えておかないと。」

 
ソンブラ侯爵は顔色が悪かった。あの店はソンブラ侯爵の息がかかった店だからだ。
エスメラルダの友人に伝わると売上は大打撃になるだろう。

クリスタの婚約者は公爵の弟だから払わない、払えないなどと言ってくることはないだろう、と店側は通常価格に上乗せした請求書を送ってきたに違いなかった。

 
誕生日プレゼントだとしても、高額すぎるとソンブラ侯爵も認めるしかなかったのだろう。
謝罪をしてきた。


「娘が調子に乗りすぎたようで申し訳ない。そのアクセサリーの請求書はこちらで処理しましょう。」

「ええ。お願いしますね。」


エスメラルダは当然だと押しつけた。
ソンブラ侯爵が店に支払いする額はその請求書の半額以下になるだろう。正規の価格はそれくらいなのだから。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

だってわたくし、悪女ですもの

さくたろう
恋愛
 妹に毒を盛ったとして王子との婚約を破棄された令嬢メイベルは、あっさりとその罪を認め、罰として城を追放、おまけにこれ以上罪を犯さないように叔父の使用人である平民ウィリアムと結婚させられてしまった。  しかしメイベルは少しも落ち込んでいなかった。敵対視してくる妹も、婚約破棄後の傷心に言い寄ってくる男も華麗に躱しながら、のびやかに幸せを掴み取っていく。 小説家になろう様にも投稿しています。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

これは王命です〜最期の願いなのです……抱いてください〜

涙乃(るの)
恋愛
これは王命です……抱いてください 「アベル様……これは王命です。触れるのも嫌かもしれませんが、最後の願いなのです……私を、抱いてください」 呪いの力を宿した瞳を持って生まれたサラは、王家管轄の施設で閉じ込められるように暮らしていた。 その瞳を見たものは、命を落とす。サラの乳母も母も、命を落としていた。 希望のもてない人生を送っていたサラに、唯一普通に接してくれる騎士アベル。 アベルに恋したサラは、死ぬ前の最期の願いとして、アベルと一夜を共にしたいと陛下に願いでる。 自分勝手な願いに罪悪感を抱くサラ。 そんなサラのことを複雑な心境で見つめるアベル。 アベルはサラの願いを聞き届けるが、サラには死刑宣告が…… 切ない→ハッピーエンドです ※大人版はムーンライトノベルズ様にも投稿しています 後日談追加しました

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

処理中です...