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しおりを挟むルース公爵エスメラルダは公爵邸に呼び出したソンブラ侯爵夫妻とクリスタ嬢に告げた。
「弟ザフィーロとクリスタ嬢との婚約を白紙に戻しましょう。」
クリスタ嬢とはソンブラ侯爵夫妻の長女で弟ザフィーロと同い年の15歳。
二人の婚約は5年前の10歳の時に結ばれていた。
「なっ!どういうことだろうか。白紙とは一体……?」
「そのままの意味です。婚約を結ぶ時に承諾されていましたよね?弟が15歳になった時、跡継ぎに相応しいと私が認めることができなければ、婚約は白紙にする、と。書類にサインも戴いております。」
「だが、ザフィーロ君に問題はないのではないか?」
「いえ、私の望む水準に達しておりません。昨年の学年順位はちょうど真ん中でした。正直、公爵家として恥ずかしい成績と言えるでしょう。未だかつてそのような成績で公爵になった者などおりませんので。」
顔をあげることなくソファに座っているザフィーロに、ソンブラ侯爵は眉をひそめた。
元々、目を覆うように前髪を伸ばしているザフィーロの表情は、顔をあげていてもよくわからないだろう。
「しかし、まだあと三年のうちに成績は伸びるとは思えないだろうか?」
「その可能性はあるでしょう。ですが、婚約の見直しは15歳の時点で、となっておりますので。」
「だが、まだザフィーロ君が跡継ぎになる可能性もあるのだろう?」
「もちろん、ないとは言い切れません。ですが、学園を卒業する三年後まで認めることはないでしょう。」
「……それでもいいから婚約を継続したいのだが?」
ソンブラ侯爵は、28歳のエスメラルダに今でも子供がいないことでザフィーロが跡継ぎになるはずだと決めつけている。いずれはザフィーロが公爵になるのだから娘との婚約を継続したいのだ。
エスメラルダは鼻で笑うようにソンブラ侯爵に言った。
「御冗談を。五年前も私は何度も婚約を断りましたよね?なのにどうしてもと頼み込まれたので条件をつけて婚約を認めました。15歳での見直しも承諾なさったではないですか。それが、今です。」
「だが、納得がいかない!婚約を解消するためにザフィーロ君が成績で手を抜いたかもしれないじゃないか!」
「まあっ!ザフィーロがクリスタ嬢との婚約が嫌で、公爵家の歴史にわざわざ汚点を残す成績を取ったとおっしゃるのですね?でしたら尚のこと婚約は白紙にすべきですわ。
嫌われている相手と結婚するよりも、クリスタ嬢を好いてくださる相手を選んだ方が親としても安心できるでしょう?今からならまだ良縁にも恵まれますわ。」
ソンブラ侯爵はザフィーロがクリスタとの婚約が嫌で手を抜いたのではないかという自分の失言のせいで追い込まれたことになった。
この婚約は、政略的な意味合いもなく、もちろん子供同士が思い合っているわけでもない。
ただ単に、公爵令息と侯爵令嬢という爵位の釣り合いに問題がないということだけでソンブラ侯爵側がゴリ押ししてきただけの婚約だったのだから。
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