29 / 30
29.
しおりを挟むフレージュはヘンドリック殿下の婚約者になってから、週に一度、王宮に通っている。
王子妃教育のためだった。
その後、毎回ヘンドリック殿下とのお茶の時間が設けられているのは、彼の希望らしい。
「これが、その果物か。」
マリエッタの領地の特産である果物は、果物のまま出回るのは自領と近隣領だけで、後は加工されるのだという。
過去に何度か王都でも売られたらしいが、期間限定のものであるため、高くて売れなかったとか。
ヘンドリック殿下にも食してもらおうと思い、フレージュが持ってきた。
もちろん、切り分けられており、毒見済であることは明らかだった。
「加工されて飲み物やお菓子になったものは口にしたことがありましたが、まさか、こんな外見をした果物だとは思いませんでした。果物の状態で食したのは初めてでしたが美味しいと思いました。
ヘンドリック殿下は口にされたことがあると思いますが。」
王宮では国中の旬の食べ物を口にしているだろうから。
「……うん。美味いな。確かにこの時期に一、二度口にするが、外皮を見たのは初めてだ。外側からは中身の味が想像もつかない。美味いのに残念な外見だな。」
黒に近い深い青緑をした外見は、とても果物には見えなかった。
でも中身は甘酸っぱくてとても美味しい。
そんな果物だった。
「それで、ウィリアムを狙った子爵令嬢は、その後はおとなしくしているのか?」
「ええ。とても反省したようです。ウィリアム様だけでなく、ご実家にも迷惑がかかったかもしれなかったことで、いかに自分の考えが浅かったのかと小さくなっていましたわ。」
「フレージュとサットン侯爵が寛大で助かったな。ローレンスは悔しがっているんじゃないか?この果物の王都での販売権でももぎ取ればよかったと思っていそうだ。」
フレデリック殿下の言う通り、兄ローレンスはこの果物を大層気に入った。
婚約者のジュリアンナにも沢山持って行って喜ばれた。
一年のうち、ほんの数週間しか生で口にすることができないというところも、価値を高めている。
「子爵家に販売の助言をしたいようでしたけどね。面倒なことになってはいけないので。」
向こうにとってこちらは友好的に対話できる相手ではない。
娘のマリエッタが侯爵令嬢の婚約を壊した代償が本当に何もないのかとビクビクしているはずだから。
「その後、ウィリアムからは何もないか?」
「ええ。よほど接近禁止を強く言われたのか、私が彼に気づく前に方向転換しているみたいです。」
フランチェスカがウィリアムが去って行くところを何度か見ていた。
「アイツは君に好意があったようだな。」
嫉妬してほしかったということは、ウィリアムは自分のことをもっとフレージュに興味を持って欲しかったのだろう。
「ヘンドリック殿下は、サーラ様に好意はなかったのですか?」
フレージュたちと違い、長年の婚約者だったのだから何らかの情はあると思った。
それこそ、少し嫉妬してしまうかもしれないとフレージュは思った。
「彼女は、何というか……困った妹?のような存在だったな。いつも私を『眩しくて見れない』と目が合うことはほとんどなかった。」
「あぁ、王族のオーラのようなものがありますものね。」
「は?髪の毛ではないのか?」
フレージュはヘンドリック殿下の髪の毛を見た。
確かに輝かしい金髪ではあるが、眩しくて見れないというわけではない。
ヘンドリック殿下の勘違いに笑ってしまった。
2,117
あなたにおすすめの小説
私の事を婚約破棄した後、すぐに破滅してしまわれた元旦那様のお話
睡蓮
恋愛
サーシャとの婚約関係を、彼女の事を思っての事だと言って破棄することを宣言したクライン。うれしそうな雰囲気で婚約破棄を実現した彼であったものの、その先で結ばれた新たな婚約者との関係は全くうまく行かず、ある理由からすぐに破滅を迎えてしまう事に…。
好き避けするような男のどこがいいのかわからない
麻宮デコ@SS短編
恋愛
マーガレットの婚約者であるローリーはマーガレットに対しては冷たくそっけない態度なのに、彼女の妹であるエイミーには優しく接している。いや、マーガレットだけが嫌われているようで、他の人にはローリーは優しい。
彼は妹の方と結婚した方がいいのではないかと思い、妹に、彼と結婚するようにと提案することにした。しかしその婚約自体が思いがけない方向に行くことになって――。
全5話
婚約破棄は喜んで
nanahi
恋愛
「お前はもう美しくない。婚約破棄だ」
他の女を愛するあなたは私にそう言い放った。あなたの国を守るため、聖なる力を搾り取られ、みじめに痩せ細った私に。
え!いいんですか?喜んで私は去ります。子爵令嬢さん、厄災の件、あとはよろしく。
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
その支払い、どこから出ていると思ってまして?
ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。
でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!?
国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、
王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。
「愛で国は救えませんわ。
救えるのは――責任と実務能力です。」
金の力で国を支える公爵令嬢の、
爽快ザマァ逆転ストーリー!
⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
全てから捨てられた伯爵令嬢は。
毒島醜女
恋愛
姉ルヴィが「あんたの婚約者、寝取ったから!」と職場に押し込んできたユークレース・エーデルシュタイン。
更に職場のお局には強引にクビを言い渡されてしまう。
結婚する気がなかったとは言え、これからどうすればいいのかと途方に暮れる彼女の前に帝国人の迷子の子供が現れる。
彼を助けたことで、薄幸なユークレースの人生は大きく変わり始める。
通常の王国語は「」
帝国語=外国語は『』
嫌いなところが多すぎるなら婚約を破棄しましょう
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私ミリスは、婚約者ジノザに蔑まれていた。
侯爵令息のジノザは学園で「嫌いなところが多すぎる」と私を見下してくる。
そして「婚約を破棄したい」と言ったから、私は賛同することにした。
どうやらジノザは公爵令嬢と婚約して、貶めた私を愛人にするつもりでいたらしい。
そのために学園での評判を下げてきたようだけど、私はマルク王子と婚約が決まる。
楽しい日々を過ごしていると、ジノザは「婚約破棄を後悔している」と言い出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる