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22.

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監禁と束縛。

王太子殿下に言われた言葉は身に染みている。


コンラッドはプリズムと出会ってから結婚するまで、男性と接する機会を排除していた。
そして結婚してからコンラッドが亡くなるまでの400日間、プリズムはケージ侯爵家から出たことはなかった。

一部屋にずっと監禁されていたわけではない。
別棟の食堂には行っていた。 
庭を歩く時は、コンラッドが一緒だった。
周りには護衛騎士を配置していたようだけど、何も起こらない限り姿を見せることはない。
それもコンラッドが徹底して指示をしていたのだと思う。

目に映る男はコンラッド一人だけ。

その状況を彼は望んでいた。

でも次期侯爵であったコンラッドも社交をしなければならない。
それには妻であるプリズムを外に出す必要がある。

王家主催の夜会に参加することが決まった時、コンラッドは呟いた。

『これが最初で最後にしたい。そのためにはどうするのがいいか………』

コンラッドが亡くなる少し前の閨事の最中、彼が執拗に足首を触っていたことにゾッとしたことがあった。
歩けなくなれば、夜会に出ることはできない。

あるいは何か薬を盛って病弱設定にするかもしれないとも考えた。
だけど、そうなれば定期的に医師を呼ぶ必要がある。
コンラッドはプリズムが弱っている姿など見たくないし、病人となると抱けなくなるのでそれはないだろうと思った。


以前、両親から聞いた話になるが、毎年社交界デビューする令嬢の中には外見の美しさで目を惹く令嬢はいるという。
なので、プリズムも人目を惹いたとしても一時のことだと思っていた。
しかも自分はデビューももう済ませた既婚なのだ。

だけど、コンラッドは頑なにプリズムを他の男性の目に触れさせたくなかったようで、真剣に監禁する方法を悩んでいたのだ。


その直後、コンラッドは亡くなった。




ホープがケージ侯爵家の跡継ぎだと言われ、プリズムは義母に侯爵家の内政の仕事を教えてもらいはじめた。
別棟から出られなかった頃は内政を覚えることもできなかったから。

こうして穏やかにホープの成長を見ながら侯爵家で過ごすのも良いかと思っていた。

しかし、未亡人というのは愛人にうってつけなのだ。
プリズムの顔を良く知りもしないのに、愛人のお誘いがあって驚いた。

王太子殿下の愛妾など、コンラッドの監禁よりも監禁されただろう。

なので、ジュリアスと結婚するのはプリズムとホープにとっていいことだと思った。……はずだった。 

いや、間違いではなかった。

だけど、ジュリアスは束縛が強い。

プリズムを自由にさせているようで自由ではない。

夜会でも家族以外とは踊ってはいけないと言いながら、結局父や兄とも躍らせない。
プリズムが誘われても、ジュリアスが誘われても、断る。
そういう夫婦がいないこともない。
なので、それで押し通せば誰も誘いに来なくなるのだ。

一度だけ王太子殿下と踊ったことで、プリズムは公妾の打診を断ったと噂されたらしい。
それはプリズムがジュリアスと愛し合っているからだという噂も流れ、ジュリアスの思うつぼだった。

ジュリアスが束縛していると思わせるよりも、お互いに愛し合っているから誰とも踊らないと思わせたかったからだ。

プリズムがジュリアスの束縛を嫌がっていると誤解する人がいれば、プリズムを助けようと無謀な行動を起こす男が現れるかもしれないから。

事実、今までも夜会中に別々に呼び出されることがあった。
だがジュリアスはプリズムを連れて動いて難を逃れていたのだ。

プリズムもそのうち人々の関心は別に移るだろうと思い、ジュリアスの束縛行動に付き合っていた。






 
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