男女の友人関係は成立する？……無理です。

23.

　
　
父の、何をおいても母中心といった日常は、もうすでにその頃からあったということね。
　

「義父上は、もう結婚なんてフルールは考えられないし、婚約者でもない公爵家の嫡男を雇うなんてとんでもないと断られたが、もう実家には戻らないしすでに話もつけてきたと言ったんだ。義父上は真っ青になってしまわれたよ。ははっ。」


笑いごとではないわよ。事前に相談くらいするべきだわ。
　

「ならば、せめて形だけでも婚約者ということにするべきではないかと義父上は悩まれた。
そして私に覚悟を問うたんだ。
婚約者になってしまえば、女性と関係を持つことはできなくなるがいいのか、と。私はいいと答えた。
結婚してもフルールと閨事ができないかもしれないがいいのか、と。私はいいと答えた。
侯爵の仕事はフルールと一緒にすればいいし、子供は親戚から養子を考えればいい。そう答えた。」　


潔さに感動するわ。すごく、カッコいいのね、私の父って。


「その頃のフルールは、少しずつ固形の物も食べられるようになって、体形も少し肉がついた。
フルールと一緒に少しずつ仕事の話をしていると、彼女がふと言ったんだ。『アトラス、あなた、公爵家のお仕事は？』って。頭が働くようになってきたんだとわかった。」


それまでは人形のようだったってことかしら。


「だから私は言ったんだ。『フルールの婚約者としてハークライト侯爵家のために働くことが私の仕事だよ』と。いつの間にか婚約者になっていることを知ってフルールは驚いていたよ。」


内緒にしていたのね。


「フルールが嫌だと思うことは何もしないし、私が君と一緒にいたいから婚約者という肩書を貰ったと説明したよ。彼女も私の頑固さを知っていたからね。呆れたように、『満足したら教えてね』と言ったよ。」


母は自分が健康を取り戻したら、父が納得して公爵家に戻るのだろうと思ったのかもしれない。
おそらく、その頃の母はまだ父の本質を見極められていなかったのね。

　
「私はフルールに、『目標を立てよう』と言ったんだ。
隣に座る、手を繋ぐ、腕を組む、肩を抱かれる、腰を抱かれる、後ろから抱きしめられる、前から抱きしめられる、髪に口づけられる、手に口づけられる、額に口づけられる、頬に口づけられる、唇に口づけられる。
ひと月ごとに目標をクリアしていって、１年後に結婚しよう、と。結婚後も閨事までは求めない。
でも、ハグとキスは幸福度を高める必須アイテムだから、慣れていこう、と。」


いつも、イチャイチャしているのはそのせいなのね。

でも、ハグはともかくキスまで必須アイテムにしたのは、父の洗脳じゃないかしら？

まぁ、目標に願望を入れる作戦は姑息なようで、有りだと思うわ。