50 / 62
50.
しおりを挟むアトラスは父に、公爵家の跡継ぎから外してほしいと申し出た。
「……フルール嬢のためか?同情で人生を棒に振るつもりか?確かに、あんな男を紹介してしまったうちにも負い目はある。しかし、婚約破棄に手を貸したし、彼女を傷つけたあの二人は平民になった。十分ではないか?」
「跡継ぎはヴィオスに。」
父の問いに答えず、アトラスは意思を変えなかった。
「同情ではない、か。お前はずっとフルール嬢を想っていたのか?」
「はい。」
「リンジーベルのことは?彼女はお前の気持ちに気づいてあんなことを?」
「いえ、リンジーベルは気づいていません。彼女は元々、性格の悪い女でした。」
「そうなのか?」
「ええ。スタッドに好かれている自分に酔いしれて、フルールを見下していたような女です。スタッドの気持ちがフルールに移っていることにイライラしながらも、性欲処理の相手に誘われて喜んで相手をしていたのですから。」
言葉にして言えなくても、スタッドの体にフルールよりも先に触れたと心の中で笑っていたのだろう。
「……お前は彼らの関係をいつから知っていたんだ?」
「関係を持って二年、そのほぼ初めからだと思います。彼らの空気感の違いを感じて調べましたから。」
「どうしてもっと早くに婚約解消を言い出さなかったんだ?」
「フルールにも関係することですから。」
父は少し考えた後、言った。
「先を読んだか。お互い結婚して子供を産んだ後、何らかの方法で彼らに不貞させる。離婚するつもりだったんだな。うちにもハークライト侯爵家にも跡継ぎができれば、フルール嬢を手に入れる。いや、ハークライト家はお前の子でも問題ないと思ったか?」
「まあ、そんなところです。ですが、ヴィオスが元気になった。」
「そうだな。だからか。お前が婿になるために、彼らの関係を結婚前にバラしたんだな。」
「いえ、バラす予定ではいましたが、それより先に目撃してしまっただけです。」
「そうだな。はあ……ハークライト家は了承しているのか?」
「いえ、まだ何も話していません。フルールに告白すらしていませんから。」
父は呆れたような顔をした。
「彼女に断られても、公爵家の跡継ぎには戻さんぞ?」
「それはもちろんです。」
「捨てられたらヴィオスの下について働けよ?」
「万が一の場合はそうしますが、受け入れてもらう自信があります。」
父は苦笑して、許してくれた。
「初恋が実ることを願っているよ。」
最後にそんな言葉を投げかけて。
1,246
あなたにおすすめの小説
男装の騎士に心を奪われる予定の婚約者がいる私の憂鬱
鍋
恋愛
私は10歳の時にファンタジー小説のライバル令嬢だと気付いた。
婚約者の王太子殿下は男装の騎士に心を奪われ私との婚約を解消する予定だ。
前世も辛い失恋経験のある私は自信が無いから王太子から逃げたい。
だって、二人のラブラブなんて想像するのも辛いもの。
私は今世も勉強を頑張ります。だって知識は裏切らないから。
傷付くのが怖くて臆病なヒロインが、傷付く前にヒーローを避けようと頑張る物語です。
王道ありがちストーリー。ご都合主義満載。
ハッピーエンドは確実です。
※ヒーローはヒロインを振り向かせようと一生懸命なのですが、悲しいことに避けられてしまいます。
婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~
春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。
6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。
14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します!
前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。
【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】
【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
お姉様のお下がりはもう結構です。
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。
慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。
「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」
ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。
幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。
「お姉様、これはあんまりです!」
「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」
ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。
しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。
「お前には従うが、心まで許すつもりはない」
しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。
だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……?
表紙:ノーコピーライトガール様より
婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります
奏音 美都
恋愛
ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。
そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。
それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる