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しおりを挟むメルリーの妊娠と流産を知って、ブレイズの気持ちは落ち込んだ。
しかし、メルリーはもっと傷ついたのだとわかっている。
会って謝罪したい。罵ってもらいたい。お前のせいだと引っ叩いてほしい。
だが、メルリーは俺の顔などもう見たくもないだろう。
何通も謝罪の手紙を書いた。
返事はない。当然だ。
読んでもらえているかもわからない。
子爵が読んでいるか、読む前に破り捨てているだろう。
だが、慰謝料として毎回金も同封しているため、封は開けているはずだと思っている。
自分の小遣いとして金を貯めることができていたのも、家賃に困らず使用人を雇う費用も子爵家が出していてくれていたからで、本来であれば慰謝料にするべき金でもないのだが、これしかないのだ。
離婚後、隊の親睦会にも参加せず、アイリーンの誘いにも乗らない日々をひと月ほど送った時、再び過去のやらかしを後悔する事態に陥った。
「ブレイズ、私、妊娠したわっ!!」
アイリーンの言葉に、息が止まった。
嘘だろ?アイリーンが妊娠?
彼女を抱いたのは結局、離婚したあの日だけだ。あの時にできたのか?
メルリーとの子はいなくなったのに、どうして……
「喜んでくれるわよね?当然、結婚してくれるわよね?」
どうして、みんなの前で話すんだ?
祝福してくれるとでも思っているのか?
メルリーを哀しませた二人だと知られているのに。
「私、騎士を辞めるわね。この子に何かあったら困るもの。」
騎士を辞める。
アイリーンのその言葉に、隊員たちは嬉しそうな顔になった。
ちゃんと責任を取れよ。
隊員たちはそういう顔をしていた。
彼女の人生を、見事押しつけられた。
「すぐに、ブレイズのところに引っ越すわね。いいでしょ?」
は?どこに?
「俺のところって、宿舎は一人部屋だけど。」
「え……?あの家は?」
「……あれはメルリーの家だ。」
「使用人は?」
「メルリーの実家が雇った者だ。」
「じゃあ、どこに住むの?使用人は?」
「……俺の給料じゃ、雇えないな。」
それどころか、メルリーに慰謝料を送っているから手元にも残っている金なんてほとんどないぞ。
「嘘でしょう?!」
嘘を言ってもしかたないだろう?
はぁ……騎士の家族用の宿舎を申請するしかないか。
居心地が悪くても、自分のせいだからな。
アイリーンと結婚か。
性欲の発散相手としてしか、満足できないかもしれない。
特に抱きたい体でもないけどな。
不幸になるための結婚のようだ。これが、メルリーを苦しめた罰か?
だが、子供に罪はない。罪は自分の取った行動だろう。
メルリーとの子は生まれてくることができなかったのに。
あぁ、アイリーンが俺の子を妊娠したと聞けば、またメルリーを傷つけるだろう。
しかし、他から耳に入る前に、手紙に書いて知らせよう。
子爵が時期を見て伝えるはずだ。
生まれてくる子供のために金の要るので、慰謝料も送れなくなる。
何をしても、中途半端で不誠実になってしまうな。
あぁ、情けない。
隊員の誰も、アイリーンの結婚発言に『おめでとう』とは言わなかった。
『頑張れよ』『やっぱりな』という声が多かった。
何を頑張れ、と?
アイリーンを家に閉じ込めることを?
何がやっぱり、だ?
妊娠させたのは離婚後だぞ?
除隊するアイリーンは、もう騎士には戻れない。
騎士団はようやく厄介払いをすることができるのだ。
アイリーンに腕をとられて、部隊長のところに報告に向かった。
部隊長は複雑そうな顔をしていた。
「そうか。アイリーンの除隊は今月末付け、家族宿舎は来月から入居する手配を頼んでおく。」
そう言って、手元の書類作業に戻った。
アイリーンは部隊長が苦手らしく、そっけない言葉で済まされても気にしていなかった。
「月末の親睦会は、私たちの結婚祝いをしてもらいましょう!!」
そして、その親睦会でアイリーンは酒を頼もうとして、妊婦の常識を知らないと隊員たちから白い目で見られていた。
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