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妊娠しているかもしれない妻を長時間、馬車に乗せるわけにはいかない。

王都行きはすぐさま中止し、卒業証明書は送ってもらうことにした。
別になくても困るものではない。 
爵位を継ぐ者には必要なものではあるが、ロレーヌが爵位を継ぐことはないのだから。



しばらくして、ロレーヌの妊娠は確実なものになった。

みんなで喜び、安定期に入った頃、ロレーヌの父親から手紙が届いた。


『新しい縁談を用意してやるから離婚して戻ってこい』


この手紙に、ドリューもロレーヌも目が点になった。
自分たちは白い結婚ではない。そんな約束をした覚えはない。
ちゃんとした夫婦だし、お腹に子供だっている。

確かにまだ若いという利点はあるが、出戻ってどこに嫁がせるというのか。

即、結婚しろといったのは侯爵だ。
あの時、婚約で留めていた場合だったらまだ結婚していなかったかもしれないが。

とにかく、ロレーヌは妊娠中だし離婚する気はお互いに全くない。

そう手紙に書いて、送り返した。

すると、


『子供を産んでから離婚して戻ってこい』


と、手紙が届いた。………意味がわからない。

そもそも、侯爵はもう帰ってくる場所はないとロレーヌを持参金もなく追い出した。
退学に追い込まれた娘を信じることもせず、事実確認をすることもなく不名誉な娘は王都から去れと。

子供を産んで離婚した娘でもいいとは一体どんな男との再婚を考えているのか。

いずれにしても、離婚など考えてもいない。

妊婦の体によくない手紙を送ってくるなよ。
 
 
再度、離婚する気はないという手紙を送り返した。



その後は、手紙が届くこともなかったのでわかってくれたのだと思い、安心していた。


ロレーヌのお腹の子は順調に成長し、産み月になり、男の子を出産した。

髪色と瞳の色はドリューに、顔立ちはロレーヌに似たとてもきれいな男の子だった。
将来はモテるだろうなと思った。

バーティと名付け、日に日に成長する我が子をとても愛しく感じていた。




そんな時、ロレーヌの父の遣いだという者たちが子爵領までやってきた。 

嫌な予感しかしない。


「どういったご用件でしょうか?」

「子爵殿はご存知だと侯爵様からは聞いておりますが。
 ロレーヌ様と離婚していただき、このままロレーヌ様は王都にお連れします。」

「それは既にお断りしています。ロレーヌと離婚する気はありません。
 そもそも、出産経験のあるロレーヌを侯爵は誰に嫁がせるつもりなのですか?」

「元々の婚約者様だということですよ?正しい形に戻すそうです。
 しかも、こちらの条件が有利になるように了承してもらっています。」

「はあ?ロレーヌに冤罪を吹っ掛けた男に嫁がせるなんて侯爵は正気か?」

「だからこそ、良い条件なのですよ。
 あの令息は一人息子なので、跡継ぎの座を降ろされませんでした。
 しかし、結婚相手が見つからないのです。
 そんな男にロレーヌ様を嫁がせるからこそ向こうは文句が言えないのですよ。」
 
「ふざけてる。ロレーヌを見捨てた侯爵に今更父親面する資格などない。
 離婚する気はありません。お帰りください。」

「……侯爵様に逆らうと?何が起こるかわかりませんよ?」

「脅しですか?その行動が侯爵家に正しいことだと?
 愚かな悪事は必ずバレますよ。ロレーヌの元婚約者のように。」


ロレーヌに会わせる気もないと遣いの者たちを早々に追い出した。

 

 
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