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しおりを挟む王宮内には人目に触れない通路もあり、そこから庭に出られる。
庭から森の中にある小さな湖をくるっと周って戻ってくる散策コースみたいなのがある。
愛妾になって少しした頃に、ルーチェが部屋でばかり過ごしていると退屈だし体が弱りそうだというと散歩を許可された。
雨が降っていない限り、毎日のように歩くことにしている。もちろん、護衛と侍女付で。
最初の頃にはどことなく見張られていた気がしたけれど、今はそんなこともない。
そもそも、女が一人で護衛を振り切って逃げられるとも思えないのに、あの殿下は何がそこまで心配なのだろう。
鎖で繋がれる気はないですからね。望まれている限り、ココにいますよ。
そう思った途端、こんな考えだから殿下は不安なのかもしれないと気付いた。
とは言っても、本妻公認の愛人みたいなものだしねぇ。
こちらとしてはいつかお役御免になるかもしれないから、その覚悟を残しておきたい。
気持ちを全部渡したのに捨てられたら生き方がわからなくなりそうでしょ?
今までの国王や王太子にいた愛妾たちはどれくらいの期間を愛妾として過ごして去っていくことになったのかな?
そんなこと、殿下に聞いたら鎖で繋がれるだろうから聞けないけど。
湖が見えてきた時、入口付近にある小さな四阿に先客がいることに気づいた。
いつもは誰にも会わない。おそらく、人払いをされているから。
ここにいるということは私に会いに来たということよね?
チラっと侍女を伺うと、頷かれた。行けってことね。わかったわ。
そこにいたのは王妃様。王太子殿下のお母様だった。
驚きながらも挨拶をすると、侍女と護衛を少し離し、四阿で二人きりになった。
「急にごめんなさいね。あの子が会わせてくれないから。」
「いえ。こちらこそ私の立場ではご挨拶に伺うことも適わず、申し訳ございません。」
「いいのよ。あの子のせいで不便な生活を強いられているので一言お詫びがしたかったのよ。」
「……元々、社交もあまり好きな方ではありませんし。
ハイネ様の慈善事業のお手伝いもさせていただいていますので、それほどは。」
「あの子はね、あなたを独り占めしたいから側妃ではなく表に出さない愛妾にしたの。
典型的な王家の血筋なのよ。代々、決められた妃以外に真に愛する人を愛妾として囲うのよ。
妃はね、同士なの。仕事相手みたいなものね。
婚約者として引き合わされた時点で女として興味を持たれなければ愛する人になれない。
妃一人を愛する王族はほぼいないらしいわ。
王族は性欲が強いらしいの。本能でそれを受け入れてくれる女性がわかるそうよ。
レイノルドの場合はあなた。」
「……では、代々、愛妾はいるということですか?」
「そうよ。妃と愛妾に求めるものが違うもの。
妃には跡継ぎと仕事。愛妾には安らぎと愛情を注ぐ性欲。」
「今までに妃と愛妾で揉め事が起こることはなかったのですか?」
「以前はよくあったそうよ。
でも、王族は国のためを考えるから、愛する人の子供だからといって跡継ぎにはしない。
というか、逆にしたくないのよ。面倒な立場に。
王太子以外は自分の望む結婚をしてほしいのよ。
愛する人の子供には愛を優先してほしいんですって。
だけど、王太子以外の子供は愛に執着しないわね。」
「王太子殿下は政略結婚が決められているのに?」
「ええ。愛する人を正妃にすれば揉め事にもならないと思うでしょ?
それなのに政略結婚をするの。
愛する人を仕事で疲れさせたくないのよ。だから正妃にはさせない。
それがこの国の王族なの。」
「正妃となられた方々の中には納得されない方もおられますよね?」
「夫の性欲を全部受け止めるから、愛妾は必要ないといった妻もいたそうよ。
でも、愛撫に熱もなく淡々と性欲処理される毎日で心身共に続けることができなかった。
結局、夫が望む愛妾を受け入れると、お互いに心が安定するの。
愛情を伴う夫婦にはなれないのよ。
だから、私もハイネも婚約者になった時から夫は同士だと見ているわ。」
「そうなのですね。」
「それでね、結局何が言いたいのかというと、レイノルドから逃げないでほしいの。
愛妾が去った王太子もしくは国王は……短命なの。気力を失うのよ。
あの子もきっとそうなるわ。」
「……ソウデスネ。
大丈夫です。逃げるつもりはないですから。」
……重い……短命って……重すぎる。
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