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しおりを挟む彼がクレソン王太子殿下であるならば、ローリエが原因でマドラス公爵令嬢との婚約を考え直したいなどと言うとは思えない。
王家は絶対に曾祖母のことを知っているからだ。あの二の舞になるようなことをするはずがない。
まぁ、今回の王太子殿下の婚約者は国内の貴族だけど。
「男爵令嬢が王太子妃になれると思っているの?」
「はい……?なれるわけがないじゃないですか。」
「そうよね?わかっているわよね?私は8年も王太子妃教育をしてきたのよ?恥じないように努力してきたわ。隙を見せれば足をすくわれる。だから、多少傲慢にも振る舞ってきたわ。
そう指導されてきたことで殿下が私のことを苦手に思っていることにも気づいているけど、どうしようもないの。
それに、今更婚約を解消されたら誰に嫁ぐというの?後妻?修道院?
私が何か悪いことしたって言うの?殿下はひどいわっ!」
すごい剣幕で一息に言われたけれど、私にどうしろと?
まぁ、言いたいことはわからなくもない。
でも、王太子殿下がどう思って婚約を考え直したいと言ったのかは、本人にしかわからないだろう。
「あの、無知で申し訳ないのですが、もし王太子殿下が王太子の地位を降りることになった場合、次は誰になるのでしょうか。」
「……ほんと、無知ね。王弟殿下の長男になるでしょうね。王女殿下は女王になれないから。」
「ではその方の婚約者になられたらよろしいのでは?」
「あなた馬鹿なの?彼には相思相愛の婚約者がいるの。私に邪魔をしろと?」
「ですが、その方は王太子妃教育を受けていらっしゃらないのですよね?」
そういう意味では王弟殿下の長男も王太子教育を受けてないのかな?
だけど、国王陛下も今すぐ譲位するわけじゃないから時間はあると思うけど。
あれ?じゃあ、王太子妃教育も今からでも間に合うんじゃない?その相思相愛の婚約者の方が。
じゃあじゃあ、マドラス公爵令嬢はやっぱり婚約者になれない?
「そうだけど、あなた、まずどうしてクレソン王太子殿下が地位を降りると思っているの?」
「え……?だって、長年の婚約を解消したいだなんてその覚悟の上なのかと。」
「あなた、不思議な考え方をするのね。普通は婚約者をすげ替えたいのかと思うわ。
だから私は、殿下があなたを望んでいるのだろうと思ったの。」
「……それはあまり現実的ではないですね?」
「確かにそうね。馬鹿かと思っていたけれどまともな考えもできるのね。」
辛辣なお言葉の後は褒められたのかな?成績で見ると私は馬鹿ではないのだけれど。
「つまり、あなたは王太子妃になる気はないと思っていいのね?」
「私が望んでいい地位ではありませんので。」
「殿下があなたを側妃に望めば?」
「私はハーブス男爵家の跡継ぎですし、側妃でも男爵家となると周りから非難されることでしょう。」
「……では殿下が王太子ではなくなれば、男爵家で受け入れると?」
「それは……私が選べることではありませんので。」
彼が『ワケアリ』として来るのであれば喜んで受け入れる。
だけど、そうなるとこのマドラス公爵令嬢は嫁ぎ先を失ってしまうのかもしれない。
輝かしい未来に向けてひたすら努力してきた彼女は、私よりもよほど価値のあるに違いないのに。
彼がなぜ婚約を考え直したいと言ったのか、それが私に関係があるのか、確かめなければならないだろう。
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