愛人契約は終わったはずじゃ?

しゃーりん

文字の大きさ
4 / 19

4.

しおりを挟む
 
 
翌日、昨日と同じ東屋で待ち合わせすると、シグルドが言った。


「弟の学費と寮費は全部支払手続きをしたから心配いらない。」

「え?してくれたの?私がしなくてもいい?」

「ああ、問題ない。弟が使える必要経費も入れておいた。
 成長期だから服や靴もサイズが変わるし、勉強に必要な物もいろいろ買いたくなるだろう?
 あの1000万もそれを考えた金額なんだろうし。」

「そうだけど……ありがとう。あなたのお小遣い、大丈夫?」

「……お小遣い、か。懐かしい響きだな。
 問題ないよ。自分で稼いだ金だからな。親も干渉しない。」


自分で稼いだ金……さすが公爵令息。教育が違うわね。


「それで……あの、場所はどこで?
 寮の私の部屋ってわけにはいかないし、あなたの屋敷ってわけにもいかないわよね?」 

「あぁ、学園のある日は近くの別邸から通ってる。そこでいいだろ。行こう。」


東屋の近くの道から通用門が見えた。
こんなところから出入りできるなんて知らなかったから驚いた。

しかし、登録されている人しか出入りができないらしい。
誰でも入って来られるわけではないと聞いて、ホッとした。

学費の支払いの時に、私の通用門登録も済ませてくれたそうで、私一人でも出入りできるらしい。
正門を通らないで外から戻れるのであれば、別邸からの帰り便利になる。
公爵令息が指示したら手続きなんて簡単に終わるんだろうなぁ。


 
別邸に着くと、使用人たちに出迎えられた。
前もって伝えられていたのか、私がいても驚かれることもなかった。
シグルドの部屋について、聞いてみた。


「ひょっとして、今までも何人も女性を連れてきていたの?」

「ははっ。まさか。ユリアが初めてだ。」

「公爵家の使用人ってやっぱりすごいのね。」

「驚いても顔に出ないって?まぁ、そうだな。
 でも、ユリアの素性は調べられることになる。多分、親にも伝わるな。」


顔が引きつった。
あまりに堂々としているから忘れそうになっていたけれど、シグルドには婚約者がいるのだ。


「素性の怪しい女を相手するよりも、素性が知れていて割り切っている女性の方がいいんだ。
 コソコソしていると悪いことをしている気になるだろ?
 堂々としていれば、ほら。自分で買いに行かなくても避妊薬まで準備してくれる。」
 

避妊薬が置かれている場所を指差した。
なるほど。令息本人が店に出向いて避妊薬を買ったり、街の宿に女性連れで入るところを誰かに見られて噂されることになるよりも、使用人に任せてしまった方が安全なのね。

ベッドに連れて行かれて、シグルドが避妊薬を飲み終えて言った。


「ユリア、俺が初めての相手でいいのか?本当に後悔しないか?」

「しないわ。でもシグルドが躊躇するなら、私があなたに奉仕して……」

「わかった。わかった。ユリアは経験がないくせに大胆だな。……キスはしても?」

「ええ。」


顔が迫ってきて、直前で目を閉じると優しく唇にキスをされた。
何度も角度を変えて少しずつ長くなり、やがて食むようになり、唇をなめられたと思ったら、隙間から舌が入ってきた。
食べられそうなくらい、口内をなめられて舌を吸われて苦しくなる。
溜まった唾液を飲み込むと、唇を離してシグルドは嬉しそうに笑った。

『あ。捕まった』

なぜか、そう感じた。

彼は捕食者だ。私は美味しいと思ってもらえるだろうか。

そんな不思議な思いが頭をよぎった。

 

 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義兄のために私ができること

しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。 しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。 入り婿である義兄はどこまで知っている? 姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。 伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。

だって悪女ですもの。

とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。 幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。 だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。 彼女の選択は。 小説家になろう様にも掲載予定です。

ワケあってこっそり歩いていた王宮で愛妾にされました。

しゃーりん
恋愛
ルーチェは夫を亡くして実家に戻り、気持ち的に肩身の狭い思いをしていた。 そこに、王宮から仕事を依頼したいと言われ、実家から出られるのであればと安易に引き受けてしまった。 王宮を訪れたルーチェに指示された仕事とは、第二王子殿下の閨教育だった。 断りきれず、ルーチェは一度限りという条件で了承することになった。 閨教育の夜、第二王子殿下のもとへ向かう途中のルーチェを連れ去ったのは王太子殿下で…… ルーチェを逃がさないように愛妾にした王太子殿下のお話です。

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

【完結】私よりも、病気(睡眠不足)になった幼馴染のことを大事にしている旦那が、嘘をついてまで居候させたいと言い出してきた件

よどら文鳥
恋愛
※あらすじにややネタバレ含みます 「ジューリア。そろそろ我が家にも執事が必要だと思うんだが」 旦那のダルムはそのように言っているが、本当の目的は執事を雇いたいわけではなかった。 彼の幼馴染のフェンフェンを家に招き入れたかっただけだったのだ。 しかし、ダルムのズル賢い喋りによって、『幼馴染は病気にかかってしまい助けてあげたい』という意味で捉えてしまう。 フェンフェンが家にやってきた時は確かに顔色が悪くてすぐにでも倒れそうな状態だった。 だが、彼女がこのような状況になってしまっていたのは理由があって……。 私は全てを知ったので、ダメな旦那とついに離婚をしたいと思うようになってしまった。 さて……誰に相談したら良いだろうか。

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。

しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。 幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。 その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。 実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。 やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。 妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。 絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。 なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。

処理中です...