愛人契約は終わったはずじゃ?

しゃーりん

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卒業しても可能な限り暮らせる最後の日まで寮で暮らし、その後王城の女性寮に入った。
 
寮で暮らす令嬢のほとんどは王都に屋敷を持たない子爵・男爵令嬢などの下位貴族。
なので、一応伯爵令嬢のユリアは爵位的には上の方だった。
公爵・侯爵令嬢は、王妃や王太子妃の侍女になったり話し相手になったりするが、寮に入ることはまずないし、勤務も毎日でなかったりする。

この国の女性の結婚適齢期は18歳から22歳。
学園卒業後に婚約者の家業や領地について学んだり結婚式の準備をしたりする令嬢もいれば、社会勉強として王城や他家で侍女になったりすることもある。
まぁ、それは婚約者のいる高位貴族令嬢がほとんどを占める。

残りの侍女は生活のためや実家に仕送りをするために働く下位貴族令嬢だから。

跡継ぎは一人しかなれないなら、子供は一人でいいんじゃないかと下位貴族に嫁ぐとそう思いがちだけど、無事に成長するとは限らないし、少しでも上の貴族と縁を結べるかもしれないし、育てた10数年分の費用を働いて返してもらえば跡継ぎの子たちの役にも立つし、何より避妊の効果が確実でない安い薬を飲むために娯楽の少ない田舎では子だくさんになる傾向があるというのが子供が一人にならない理由だ。

そして、運が良ければ侍女、悪ければメイドとなってどこかで働くことになる。




ユリアは他の新人侍女と一緒に研修を受けた後、総務部に配属された。
届く書類を各部署に配布したり、会議室の管理や、来客対応、お茶出しなどが仕事だった。


そうして新しい日常にバタバタしていた頃、隣国の第4王女が離宮で暮らすためにやってきた。
半年後に16歳になる王女が結婚式前にこの国に慣れるためである。
シグルドの婚約者ではあるが、まだ王女。
公爵家に滞在させるわけにはいかないため、王宮にいくつかある離宮の一つで生活する。

もちろん、新人侍女であるユリアが隣国王女のお世話をすることはない。
王女もこちらにやってくることはないので、顔を見る機会もないはず。

だけど、噂だけは聞こえる。
王女様の名前はメラニー様。今はまだ15歳。
お人形のような可愛い人らしい。
が、非常に無口で無表情。
ほとんど部屋から出ない。

今、聞こえてくるのはそんな感じ。

シグルドとはもう会ったんだろうな。

もう私には関係ないんだから、気にしない。

…………そう思っていたのに。



書類を届けて戻ろうと歩いていると、いきなり腕を掴まれて部屋に連れ込まれた。
驚いて抵抗しようとした。
だけど、『ユリア』と囁かれて動きを止めた。

気づけばシグルドの顔が目の前にあり、キスをされていた。
驚いてされるがまま。

抵抗しないユリアに満足したように唇を離したシグルドは、ユリアに一言だけ告げて部屋を出た。


『他の男を受け入れるなよ。』


愛人契約は終わったはずじゃ?

あなたは王女様と結婚するんでしょ??

意味がわからないのですけど???


どういうことか聞きたかったけど、その手段もない。
なので、言われたことに従う必要もないと思った。



ユリアがあちこちの部署に書類を届けるようになってから日が経つにつれていろんなお誘いがあった。

『食事を』
『デートを』
『観劇を』
『恋人に』
『愛人に』
『結婚前提に』

顔と名前が一致しないのに、手紙も届く。

先輩たち曰く、婚約者のいない新人侍女は毎年争奪戦のようになるらしい。
返事する必要はない。
本気でユリアと付き合いたいと思う人は何度もアプローチしてくる。
その時に嫌なら断ればいいとのことだった。
 
確かに、慣れてきたら挨拶のように誘ってくる人もいる。
そういう人は遊び相手を探していたり、人気のある女性を落とせたことを自慢したりするらしい。
 
恋人がほしいと思っても、相手は慎重に選ばないと働きにくくなりそう。

それに、シグルドに言われた言葉が頭に残っていて、なかなか相手を探そうという気にもなれなかった。

………まさか、それが狙い? 

 

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