8 / 30
8.
しおりを挟む『子を産めなくする薬を持ってきた。飲んでくれ。』
レティシアはリオンにそう言われ、驚きを隠せなかった。
「どう、して?」
「三年間、ジョエルの子を孕まないためだ。子供を産めば離婚し難くなるから。
僕たちにも子が望めなくなるが、それはどうとでもなる。養子を取ればいいし。
僕は君さえいればいい。三年経ったら離婚して、一緒になろう。」
『君がルチアの姉として責任を取るというなら、僕に対しても責任を取ってほしい。』
さっき、リオンはそう言った。
責任を取って、離婚後の人生を共に歩めと言っているのだ。
「ダメよ、リオン。誰と結婚しても、あなたなら幸せになれるわ。」
「僕は、レティシアと幸せになりたいんだっ!」
「お願い、声を抑えて。」
興奮してきたリオンを宥めた。
リオンは完全にルチアの被害者である。
なかなか気持ちにケリがつけられないのもわかる。
「毎回、避妊薬を飲むわ。それでいいんじゃない?」
「ダメだよ。避妊薬だと見つかるかもしれない。石女だと思わせなければ離婚できない。」
アーノン侯爵家を欺くの?
いえ、欺くわけじゃない。本当に、産めなくなるのだから。
だけど、そんなことできないわ。
そう思っていたのに、リオンはそんな迷いを許さないというようにレティシアを追い詰めた。
「レティシア、僕は子種を殺す薬を飲んだんだ。君との子以外はいらないから。だから、君も僕の子を産めないんだからジョエルの子なんて産まないでほしい。」
リオンの告白に、レティシアは涙が溢れた。
なんということをしたのか。
ルチアのしたことは、罪深すぎる。
リオンにここまでのことをさせてしまうなんて。
レティシアの涙を、リオンがハンカチで拭いながら囁いた。
「このハンカチの中に、薬が入っている。飲んでくれるよね?」
……ジョエル様と離婚するためには、飲まなければならない。
リオンに対しての責任。
レティシアは瞼を閉じて涙を流しながら頷いた。
「必ず飲むんだよ。僕を裏切らないでくれ。」
レティシアは絶望を感じた。
その夜、震える手でハンカチの中にあった包みを開き、レティシアは薬を飲んだ……
一晩中、涙が止まらなかった。
十日後、アーノン侯爵家で正式にレティシアとジョエル様の婚約が結ばれた。
「ルチアさんはいつもジョエルの仕事中におしゃべりばかりして困っていたのよ。ジョエルは聞き流していたようだけど。婚約者としての交流の時間と仕事の時間は別よね?レティシアさん。」
ルチアはジョエル様の邪魔ばかりしていたらしい。両親も頭を下げていた。
「はい。お仕事の邪魔になるつもりはありません。お気に障るようなことはおっしゃってください。」
侯爵夫人は満足そうに頷いていた。
ルチアと合うような夫人ではない。
二人とも、不満が募っていたのではないかと思った。
実はジョエル様は、ルチアの前にも婚約者がいた。
理由は知らないが婚約解消になり、年齢のつりあう格下のクロス伯爵家に縁談の申し込みをしてきたのだ。
ルチアと婚約解消すれば二度目となることで、ジョエル様が訳ありだと思われる可能性がある。
そのため、姉のレティシアを望み、婚約者の交換だと思わせたかったのではないかと想像した。
「レティシア嬢、少し庭を歩かないか?」
ジョエル様が微笑んでそう誘ってきたので驚いた。
ルチアからは無口でクールと聞いていたのに。
683
あなたにおすすめの小説
皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]
風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが
王命により皇太子の元に嫁ぎ
無能と言われた夫を支えていた
ある日突然
皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を
第2夫人迎えたのだった
マルティナは初恋の人である
第2皇子であった彼を新皇帝にするべく
動き出したのだった
マルティナは時間をかけながら
じっくりと王家を牛耳り
自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け
理想の人生を作り上げていく
【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》
私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか
れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。
婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。
両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。
バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。
*今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m
【完結】どうか私を思い出さないで
miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。
一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。
ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。
コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。
「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」
それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。
「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた
玉菜きゃべつ
恋愛
確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。
なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる