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結婚式の夜、レティシアはジョエル様と閨を共にした。
ジョエル様はとても優しく、丁寧に、それでいて情熱的にレティシアを抱いてくれた。
事後もいろいろと労わってくれるジョエル様に純潔を捧げたことに後悔はなかった。
しかし、体内に注がれた子種が実ることはない。
そのことを思うと、レティシアの心はひどく痛む。
本当に、自分は取り返しのつかないことをしてしまったのだ、と。
子を望めないレティシアは、せめて三年間はいい妻でいようと心に決めていた。
義母となった侯爵夫人は、厳格な方ではあるが教え方が丁寧で、覚えが早いとレティシアを褒めてくれる。
義父となった侯爵は、結婚するまで隠されていたが、持病があるらしい。
そのため、ジョエル様に早く結婚してもらって爵位を譲りたい。
隠居後は、領地で静養するのだと伝えられた。
ルチアに代わり、レティシアが選ばれ、結婚を急いだ本当の理由はここにあったのだと知った。
一年後を目途にしていると聞き、離婚までの三年間でアーノン侯爵夫人になることはないと思っていたレティシアには衝撃が大きかった。
月のものが来た。妊娠していない。
わかっていたことなのに、悲しかった。
「レティシア、そんなに落ち込むな。まだ結婚したばかりなんだから。」
「でも……ごめんなさい。」
「レティシアのせいじゃないよ。まだ二人の時間を楽しめってことだ。な?」
ジョエル様は本当に優しい。
この人を裏切っていることが、つらい。
『私は妊娠できない体なの。』
そう言ってしまいたい。
でもそうすると、実家のクロス伯爵家とリオンのトレッド伯爵家は慰謝料と醜聞塗れで苦しむことになっていた。
家族だけでなく領民を守るためにも、自分がつらくて楽になりたいからと言うことはできない。
リオンに対する責任と償いのためにあの薬を飲んだのは自分自身なのだから。
ジョエル様の指示で、ドレスを何着もあつらえた。
これまで侯爵夫妻がしていた社交を引き継いでいかなければならない。
ジョエル様の妻として、一緒に顔を出す必要があった。
それに、婚約者の交換は本人たちの意思でもあったのだと、レティシアとジョエル様は円満な関係なのだと知らしめる意味もある。
そこは義母の社交性が効力を発揮した。
「姉のレティシアさんの方がルチアさんの卒業を待たなくても早く結婚できるし、優秀なの。
あ、ルチアさんが優秀じゃないと言っているのではないのよ?だけど、まだ後一年は学生だったから意欲的な問題でね。私としては早く女主人として切り盛りしてもらいたかったから。」
『わかるわぁ』と同意している夫人が多くいた。
女主人としての権限を譲る気はないが、早く覚えて助けてほしいというのが本音である。
そして一日でも早く孫ができることに越したことはないので、早く結婚してほしいのだ。
そんな中、ある夫人がからかうような口調で言う。
「でもまさか、婚約者を変えた途端に妹さんの方が妊娠してしまうなんてね。よほど気が合ったのかしら?待てなかったのねぇ。」
誘ったのがリオンかルチアかは知らないが、結婚もしていないのに体の関係を持って妊娠し、慌てて結婚した二人ということになっている。
レティシアはそれを否定してはいけないのだ。
元婚約者のリオンを庇うような発言は、アーノン侯爵家の嫁として許されない。
いくら、リオンが苦々しくこちらを見ていることに気づいても、アーノン侯爵家への恩を忘れてはならないのだ。
それは身の潔白を証明できなかったリオンにも言えることである。
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