裏切る前提の結婚は、心が痛かった

しゃーりん

文字の大きさ
11 / 30

11.

しおりを挟む
 
 
結婚式の夜、レティシアはジョエル様と閨を共にした。

ジョエル様はとても優しく、丁寧に、それでいて情熱的にレティシアを抱いてくれた。 
事後もいろいろと労わってくれるジョエル様に純潔を捧げたことに後悔はなかった。

しかし、体内に注がれた子種が実ることはない。
 
そのことを思うと、レティシアの心はひどく痛む。

本当に、自分は取り返しのつかないことをしてしまったのだ、と。


子を望めないレティシアは、せめて三年間はいい妻でいようと心に決めていた。
 



義母となった侯爵夫人は、厳格な方ではあるが教え方が丁寧で、覚えが早いとレティシアを褒めてくれる。

義父となった侯爵は、結婚するまで隠されていたが、持病があるらしい。

そのため、ジョエル様に早く結婚してもらって爵位を譲りたい。
隠居後は、領地で静養するのだと伝えられた。

ルチアに代わり、レティシアが選ばれ、結婚を急いだ本当の理由はここにあったのだと知った。

一年後を目途にしていると聞き、離婚までの三年間でアーノン侯爵夫人になることはないと思っていたレティシアには衝撃が大きかった。
 



月のものが来た。妊娠していない。
わかっていたことなのに、悲しかった。


「レティシア、そんなに落ち込むな。まだ結婚したばかりなんだから。」

「でも……ごめんなさい。」

「レティシアのせいじゃないよ。まだ二人の時間を楽しめってことだ。な?」
 

ジョエル様は本当に優しい。
この人を裏切っていることが、つらい。

『私は妊娠できない体なの。』

そう言ってしまいたい。

でもそうすると、実家のクロス伯爵家とリオンのトレッド伯爵家は慰謝料と醜聞塗れで苦しむことになっていた。

家族だけでなく領民を守るためにも、自分がつらくて楽になりたいからと言うことはできない。

リオンに対する責任と償いのためにあの薬を飲んだのは自分自身なのだから。




ジョエル様の指示で、ドレスを何着もあつらえた。

これまで侯爵夫妻がしていた社交を引き継いでいかなければならない。
ジョエル様の妻として、一緒に顔を出す必要があった。

それに、婚約者の交換は本人たちの意思でもあったのだと、レティシアとジョエル様は円満な関係なのだと知らしめる意味もある。

そこは義母の社交性が効力を発揮した。 


「姉のレティシアさんの方がルチアさんの卒業を待たなくても早く結婚できるし、優秀なの。
あ、ルチアさんが優秀じゃないと言っているのではないのよ?だけど、まだ後一年は学生だったから意欲的な問題でね。私としては早く女主人として切り盛りしてもらいたかったから。」


『わかるわぁ』と同意している夫人が多くいた。
女主人としての権限を譲る気はないが、早く覚えて助けてほしいというのが本音である。 
そして一日でも早く孫ができることに越したことはないので、早く結婚してほしいのだ。
 
そんな中、ある夫人がからかうような口調で言う。


「でもまさか、婚約者を変えた途端に妹さんの方が妊娠してしまうなんてね。よほど気が合ったのかしら?待てなかったのねぇ。」


誘ったのがリオンかルチアかは知らないが、結婚もしていないのに体の関係を持って妊娠し、慌てて結婚した二人ということになっている。
 
レティシアはそれを否定してはいけないのだ。
元婚約者のリオンを庇うような発言は、アーノン侯爵家の嫁として許されない。

いくら、リオンが苦々しくこちらを見ていることに気づいても、アーノン侯爵家への恩を忘れてはならないのだ。

それは身の潔白を証明できなかったリオンにも言えることである。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

【完結】白い結婚はあなたへの導き

白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。 彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。 何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。 先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。 悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。 運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》

私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか

れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。 婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。 両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。 バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。 *今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m

【完結】どうか私を思い出さないで

miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。 一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。 ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。 コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。 「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」 それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。 「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた

玉菜きゃべつ
恋愛
 確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。  なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

処理中です...