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アーノン侯爵家の領地は、王都から近いのに自然豊かで美しいところだった。
「とても、綺麗だわ。」
「昔は自然災害に悩まされていたらしい。豊富な雪解け水や豪雨の際に川幅が狭くてね。何代か前に大規模改革をして川幅を広くしたり水を引けるようにしたり、それに伴って領民が移り住むことを嫌がって対立したりで、大変な時期はあったらしいが、結果的に領民にも住みやすく生活の安定にも繋がった。」
アーノン家のご先祖は、領民に対して誠実に対応したのだろう。
勝手な改革で住まいと田畑を奪われたのに、移り住んだところが不便だったり仕事がなかったりということになれば、不満を抱く者は多くなる。
そうならないよう、納得させるのは大変なこと。
強引な手段も中にはあったのかもしれないけれど、侯爵家は蓄財を大きく減らしてでも領地領民のために最善の策を取ったと思われた。
あと半年もすれば、侯爵夫妻はこの領地へと移り住む。
確かにここは、王都に比べて遥かに空気が綺麗なので、義父の体にもよさそうである。
侯爵位に就いたままでは王都での社交を求められる。
そのため、ジョエル様に爵位を譲って、社交を任せるということなのだ。
意外にも、義母も王都での暮らしに未練はないらしい。
『腹の探り合いのような会話は疲れるわ』
厳格な義母がそう言った時は、本当に驚いた。
義母はかつて、嫌な思いをしたことがあるのかもしれない。
社交界はちょっとしたことでも噂になり、真偽不明な場合も多いから。
レティシアとジョエル様の結婚のことでも、レティシアを前に言えなかったことはあったに違いない。
それでもルチアの浮気のことをレティシアに批判しない義母は心優しい方だと思う。
まぁ、ルチアとは合わなかったから、むしろ結婚相手が代わってよかったと思っている気もするけれど。
領地に来てからも、ジョエル様は毎晩のようにレティシアを抱いた。
「これは確かに子供を作る行為でもあるけれど、私は自分を曝け出して愛を伝えられる行為だと思ってるんだ。」
「愛……?」
「そうだ。肌を重ねるといろいろとわかる気がする。たとえば、君は嫌々私に抱かれているわけではないこととか。」
ジョエル様にそう言われて、レティシアは顔が真っ赤になった。
「嫌がって、早く終わってほしいと思っていたら、わかる。あるいは、ただ気持ちいいからと性欲の発散だと思っていても、わかる。君の体も心も、私の思いに応えて喜んでいると伝わってくる。」
「思い……?」
「そうだ。私はレティシアを愛している。それを肌で感じ取ってくれているだろう?」
突然のジョエル様からの告白にレティシアは驚いた。
確かに大切にされているとは感じている。
突然、結婚相手が代わったことで、しかも、ルチアの姉ということで、彼がレティシアを単なる政略結婚の相手だと接していてもおかしくはなかった。
それなのに、婚約当初から彼は優しく、初夜でも労りがあり、義務や性欲処理というには有り得ないほど情熱的でまるで愛されているような錯覚を覚えていた。
しかし、それは錯覚でもなんでもなく、彼の気持ちそのもので間違いなかったのだ。
驚いているレティシアにジョエル様は微笑んで、言った。
「言葉で返してくれなくても、レティシアの体は素直でちゃんと応えてくれる。今はそれで満足だ。」
キスをされて、再びレティシアを抱こうとしているジョエル様を止めたいと思わない。
嬉しいとさえ感じる。
彼はそんなレティシアの心さえ、読みとっているに違いないと身を任せた。
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