裏切る前提の結婚は、心が痛かった

しゃーりん

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ひと月ほど領地で過ごし、王都に戻った。

すると、昨日にルチアが女の子を産んだという連絡が届いたらしい。 

 
「……そう、ですか。何かお祝いを贈ることにします。」


姉ならば会いに行っても変ではない。
それでも、リオンに会いたくなかったので、トレッド伯爵家に行くつもりはないと答えた。

レティシアの返事に満足したのか、義母はそれでいいというように頷いた。



昨日産まれて、ちゃんと連絡が来ている。

ということは、ルチアの子はリオンの子として違和感はなかったらしい。
明らかに髪色や顔立ちに疑問があれば、ルチアは責められて誕生の報告どころではなかったはず。 

リオンもルチアの子が我が子だと認めてくれたらいいな、とレティシアは思った。

 


しかし、レティシアの願いも虚しく、リオンは相変わらずレティシアに視線を向けていた。

ルチアは出産後、まだ夜会には姿を見せていない。
産後二か月ほどで表に出る夫人もいれば、一年ほど表に出ない夫人もいる。

母乳でドレスが汚れるからとか、体形が元に戻らないからとか、様々な理由で出席が見送られ、夫だけが夜会に来るということも少なくない。

だがその場合、羽目を外す夫も中にはいるという。

レティシアはリオンがある未亡人と部屋のほうに姿を消すところを見てしまった。 
 

「……彼はよくわからない男だな。」


同じく見ていたジョエル様がそう呟いた。

レティシアがリオンの視線に気づくのだから、ジョエル様も当然気づいていただろう。
今までリオンのことについて何も言ったことはなかったが、リオンがレティシアに執着しているように見えていたのは間違いない。

リオンにはルチアという妻がいるのにレティシアを諦めておらず、それなのに一夜の遊びはする。

レティシアにもリオンがどうするつもりなのか、最早わからなかった。


「ルチアの子が生まれれば、彼も変わるのではないかと思っていたけど……」


ルチアとリオンの夫婦がうまくいっているとは思えなかった。


「……彼には近寄らないように。」

「……ええ。」
 

リオンを恐ろしく感じた。





それから少しして、ルチアから会いたいと手紙が来た。

産後半年以上過ぎてもどこにも顔を出さないルチアと会うのは、レティシアの結婚式以来となる。
生まれた子、ルネットの顔もまだ見ていなかった。

もうすぐ侯爵夫妻が領地に向かう中、落ち着かないので会うのはひと月後ということになった。


しかし、その間にルチアの訃報が届いた。


「え……?何があったの?」

「階段から転落されて頭を打たれたのです。」


ルチアに付いていた、実家からの侍女がこわばった顔でそう答えた。


「階段から……ルチアの不注意ってこと?」

「……はい。」


少し、間があった。


「違うの?何か知ってるの?」

「いえ、ルチア様の不注意は間違いありません。ただ、伯爵夫人と言い争いをしていた最中だったというだけです。」
 
「トレッド伯爵夫人と?ルチアと仲が悪かったの?」

「いえ、そんなことはありませんでした。ルネットお嬢様のことも可愛がってくださっていますし。」


ルネットはリオンの子で伯爵夫人にとっては孫だから。
でもそれなのに、言い争いを?

まさか、リオンの子ではないという証拠が見つかって、ルチアは責められた?

もしそうだったとしたら……  

レティシアはルネットの今後が心配になった。 


 
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