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しおりを挟むルチアはリオンを嵌めたことを、最低なことをしたとわかっている。
しかし、あの時は本気で姉と婚約者を入れ替えることが幸せになれるのだと信じていた。
リオンのことが欲しくなったわけではない。
それでも、夫婦になればうまくいくのではないかと楽観視していた。
誤算だったのは妊娠と、リオンの姉に対する執着に気づかなかったこと。
そのために、ルチアの結婚は前途多難となった。
「ルチア、僕は君を妻として社交界に連れ出す気はない。」
「どういうことですか?」
「そのままだよ。僕が愛しているのはレティシアだ。君じゃない。」
「お姉様はジョエル様と結婚するのよ?」
「君のせいでな。可哀想に。幸せになれるわけがない。」
「そんなことないわ。ジョエル様はお姉様を幸せにしてくれるはずよ。」
「君は彼と結婚したくなかったから、こんなことをしでかしたんじゃないのか?自分が嫌な相手をレティシアに押しつけたというのに、幸せになれるなどと、愚かなことを。」
違う。
ジョエル様は私に興味がなかったから。
お姉様の話をした時だけ、ちゃんと聞いてくれたから。
「レティシアは僕が幸せにしないとダメなんだ。そのうち、お互いに離婚して一緒になる約束をした。」
嘘でしょう?
お姉様がそんな約束を?
おかしいわ、おかしい。
この男の頭が、おかしい。
ひょっとして、お姉様を脅した?
私のせいで、お姉様はジョエル様と離婚することになる?
侯爵家の嫁として、お姉様は責務を果たそうとするはず。
お姉様はリオン様との結婚を楽しみにしていたけれど、貴族の娘として全うすることを選ぶ人。
リオン様への気持ちは過去のものと割り切るはずだわ。
そして、夫となるジョエル様の愛に応える。そんな人だから。
もしかして、この状態のリオン様の存在って、お姉様にとってとんでもなく邪魔なのでは?
……これはリオン様のことを見誤った私が悪い。
お姉様に被害が及ばないように、私は離婚してはいけないわね。
こんな状況を作ったのは自分だとわかっているし、後悔もしている。
リオン様は私の被害者だけど、使用人から聞こえてくるリオン様の評判は思ったほどよくなかった。
お姉様がいなければ、ポンコツな気が……
お姉様を頼りにしていたから、余計に執着している気が……
娘、ルネットを出産して、リオン様の色を見て伯爵夫妻が喜んでくれたのは助かった。
リオン様はしつこく誰の子か確認してきたけれど。
誰にも本当のことを言う気はない。
ルネットを産んで八か月を迎える頃だった。
義父であるトレッド伯爵に囁かれた。
『君の秘密を知っているよ』と。
そして愚かにもそれに大きく反応を見せてしまった。
義父に体をまさぐられて、慌てて逃げた。
パニックになって、姉に相談しよう、全部話してしまおうと会いたいと手紙を出した。
だけど、義父は寝室に忍び込んできた。
一人寝でリオン様とは離れた部屋。
絶望を感じた。
しかし、義母が義父の後をつけていたらしい。
義父に襲われていたところを助けてくれた。と思ったが違った。
義母は、小型ナイフを両手で握りしめて、ルチアに向かって来たのだ。
それを避けて、部屋から逃げても義母は追いかけてきた。
リオン様が騒ぎに気づき、義母のナイフを取り上げてくれてホッとしたが、それでも義母はルチアに向かってきた。
『阿婆擦れ』と罵られ、誤解だと言っても聞き入れられなかった。
手を上げられて、躱そうと後ろに下がれば、そこは階段だった。
あっ……落ちる。
咄嗟に、驚く顔のリオン様が視界に入った。
『あなたのせいよっ!』
そう叫んだ。
リオン様に罪悪感を植え付けたかった。
万が一、お姉様がジョエル様と離婚することになっても、こんな家に嫁ぐことがあってはならない。
これが、最期に思ったことだった。
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