裏切る前提の結婚は、心が痛かった

しゃーりん

文字の大きさ
18 / 30

18.

しおりを挟む
 
 
ルチアはリオンを嵌めたことを、最低なことをしたとわかっている。

しかし、あの時は本気で姉と婚約者を入れ替えることが幸せになれるのだと信じていた。
リオンのことが欲しくなったわけではない。
それでも、夫婦になればうまくいくのではないかと楽観視していた。

誤算だったのは妊娠と、リオンの姉に対する執着に気づかなかったこと。

そのために、ルチアの結婚は前途多難となった。 

 

「ルチア、僕は君を妻として社交界に連れ出す気はない。」

「どういうことですか?」

「そのままだよ。僕が愛しているのはレティシアだ。君じゃない。」

「お姉様はジョエル様と結婚するのよ?」

「君のせいでな。可哀想に。幸せになれるわけがない。」

「そんなことないわ。ジョエル様はお姉様を幸せにしてくれるはずよ。」

「君は彼と結婚したくなかったから、こんなことをしでかしたんじゃないのか?自分が嫌な相手をレティシアに押しつけたというのに、幸せになれるなどと、愚かなことを。」 


違う。
ジョエル様は私に興味がなかったから。
お姉様の話をした時だけ、ちゃんと聞いてくれたから。


「レティシアは僕が幸せにしないとダメなんだ。そのうち、お互いに離婚して一緒になる約束をした。」


嘘でしょう?
お姉様がそんな約束を?

おかしいわ、おかしい。
この男の頭が、おかしい。 

ひょっとして、お姉様を脅した?
私のせいで、お姉様はジョエル様と離婚することになる?


侯爵家の嫁として、お姉様は責務を果たそうとするはず。

お姉様はリオン様との結婚を楽しみにしていたけれど、貴族の娘として全うすることを選ぶ人。
リオン様への気持ちは過去のものと割り切るはずだわ。
そして、夫となるジョエル様の愛に応える。そんな人だから。 


もしかして、この状態のリオン様の存在って、お姉様にとってとんでもなく邪魔なのでは?
 
……これはリオン様のことを見誤った私が悪い。
お姉様に被害が及ばないように、私は離婚してはいけないわね。


こんな状況を作ったのは自分だとわかっているし、後悔もしている。

リオン様は私の被害者だけど、使用人から聞こえてくるリオン様の評判は思ったほどよくなかった。
お姉様がいなければ、ポンコツな気が……
お姉様を頼りにしていたから、余計に執着している気が……
 

娘、ルネットを出産して、リオン様の色を見て伯爵夫妻が喜んでくれたのは助かった。
リオン様はしつこく誰の子か確認してきたけれど。
 
誰にも本当のことを言う気はない。



ルネットを産んで八か月を迎える頃だった。
義父であるトレッド伯爵に囁かれた。

『君の秘密を知っているよ』と。

そして愚かにもそれに大きく反応を見せてしまった。
 
義父に体をまさぐられて、慌てて逃げた。

パニックになって、姉に相談しよう、全部話してしまおうと会いたいと手紙を出した。

だけど、義父は寝室に忍び込んできた。

一人寝でリオン様とは離れた部屋。
絶望を感じた。
 
しかし、義母が義父の後をつけていたらしい。
義父に襲われていたところを助けてくれた。と思ったが違った。
 
義母は、小型ナイフを両手で握りしめて、ルチアに向かって来たのだ。
それを避けて、部屋から逃げても義母は追いかけてきた。
リオン様が騒ぎに気づき、義母のナイフを取り上げてくれてホッとしたが、それでも義母はルチアに向かってきた。

『阿婆擦れ』と罵られ、誤解だと言っても聞き入れられなかった。

手を上げられて、躱そうと後ろに下がれば、そこは階段だった。


あっ……落ちる。


咄嗟に、驚く顔のリオン様が視界に入った。

『あなたのせいよっ!』

そう叫んだ。


リオン様に罪悪感を植え付けたかった。

万が一、お姉様がジョエル様と離婚することになっても、こんな家に嫁ぐことがあってはならない。
 
これが、最期に思ったことだった。

 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

【完結】白い結婚はあなたへの導き

白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。 彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。 何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。 先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。 悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。 運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》

私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか

れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。 婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。 両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。 バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。 *今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m

【完結】どうか私を思い出さないで

miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。 一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。 ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。 コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。 「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」 それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。 「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた

玉菜きゃべつ
恋愛
 確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。  なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

処理中です...