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硬い床の上で止まったルチアは一目で亡くなっているとわかった。
「わ、私のせいじゃないわっ。手は当たっていないものっ!」
リオンの母は、首を横に振り続けながらそう言った。
だが、母の手を避けようとしてルチアは後ろに下がり、バランスを崩して階段に転落した。
原因が母にあることは間違いなかったが、まさか母を殺人犯にするわけにもいかない。
そもそも、経緯を把握する必要があった。
なぜ、母はナイフを持ってルチアを追いかけていたのか。
なぜ、父はその後ろから夜着がはたけた状態で追いかけていたのか。
なぜ、ルチアは夜着姿でガウンも羽織っていないのか。
聞かなくてもわかる気がするが、聞かなければならなかった。
使用人たちにルチアをベッドに運んで医師を呼ぶように言った。
医師による死亡の判定がなされるまでに、話を合わせておく必要があった。
「何があったのですか?」
「……この人が、こっそり部屋を出て行くことに気づいたの。侍女たちからルチアさんと怪しいって聞いたからまさかと思ったけど、彼女の部屋に行ってみたの。二人でベッドにいたわ。だから……」
ナイフを振りかざしたというわけか。
「ルチアは父上を受け入れていたのですか?」
「部屋に入れるのだから、そうでしょう?」
「彼女は本当に嫌がっていなかった?」
「嫌がって……?あ……抵抗、していたかもしれないわ。」
母は自分の思い違いに気づいたらしい。顔色が更に悪くなった。
父の女好きは知っている。
母も知らないフリをしているだけで、本当は父が浮気していることに気づいているだろう。
父は歳を取るのに相手の女性はどんどん若くなっていく。
リオンと同い年の男爵令嬢と関係を持っているのを知った時はうんざりしたが、ルチアは更に年下だ。
息子に相手にされていないルチアを可愛がってやろうとか、そんな下心が透けて見えた。
その父を侮蔑するように見た。
「お、お前が相手をしてやらないから、可哀想だと思ったんだ。それに、私との子ができて男の子が生まれれば、このトレッド伯爵家を継がせられるだろう?お前はルネットを可愛がっていないし。」
「僕はルチアと離婚するつもりだと言いましたよね?まさか、子供ができたら母上と離婚するつもりだったのですか?ルチアを妻に?」
「……いや、お前の子として、ははっ……」
なんだそれは。
父がルチアを孕ませたら、その子は自分の弟か妹にあたる。
それなのに、僕の子としたら、対外的には二人の子持ちになるではないか。
二人も生ませておいてルチアと離婚したら、レティシアと再婚しにくくなるところだった。
計画が狂うようなことを勝手にしないでくれと叫びたかった。
だが、ルチアが不注意で階段から落ちたことにすれば、問題はない。
亡き妻との子を一人で育てているところに、子ができなくて離婚したレティシアが姪に会いに来る。
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ルチアの死はむしろ好都合であると、リオンはほくそ笑んだ。
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