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しおりを挟むジョエル様がアーノン侯爵となり、レティシアはアーノン侯爵夫人と呼ばれることになった。
結婚して一年と数か月。
ジョエル様は21歳でレティシアは20歳。
そんな二人にかけられる声の中には『子供はまだ?』というものも多くあった。
「レティシア、大丈夫か?」
「ええ。気にしていないわ。」
ジョエル様はいつも気遣ってくれる。
本当に優しい人。
三年が経つまでは、こうして愛されていたい。……愛していたい。
レティシアは期間限定だからこそ、笑顔で過ごしたかった。
観劇に行ったり、ピクニックに行ったり、旅行に行ったりして、思い出もたくさん作った。
体を繋げる日も、繋げない日も、毎日一緒に眠った。
本当に幸せだった。
そして、心が痛かった。
そうして三年目の結婚記念日を半月後に控えた日、レティシアはジョエル様に切り出した。
「ジョエル様、もうすぐ結婚して三年が経ちます。」
「そうだな。それで?浮気など一度もしていないよ?」
「……子供ができませんでしたので、離婚してください。」
ジョエル様はしばらくの間、表情のない顔でレティシアを見ていた。
「養子を考えているんだ。」
「養子?」
「ああ。子ができない原因が私だと考えることもできる。」
「そんなっ!私が原因です!」
「どうしてそう言い切れるんだ?」
「それは……」
薬を飲んだからとは言えない。
最初から騙していたというのはひどい裏切りで、慰謝料を請求されれば窮地に陥る。
いや、それは言い訳で、単に裏切りを知られたくないだけだとわかっていた。
喧嘩をすることなく過ごしてきた三年間。
いい思い出を持ったまま、別れたい。
裏切りを知られて、軽蔑の眼差しで見られたくなかった。
「領地にいる両親も、養子をとることは認めてくれているんだ。心配ない。」
「お義父様とお義母様が?」
まさか、子を産めない嫁など役に立たないのに、どうして?
「母も、私を産むまでに五年かかった。父は親から母との離婚を迫られたり女性を寝室で待たせたりして関係を持たそうとされたらしい。
だから、私たちに子ができなくても互いが夫婦でいたい気持ちがあれば親戚から養子をとればいいと言っていた。」
自分たちがした嫌な経験を私たちに味わわせないように、そんなことを?
「両親はレティシアを気に入っている。私は君を愛しているし、君も僕を愛してくれているだろう?」
「それでも……ダメです。最初に約束したじゃないですか。三年って。」
ちゃんと別れなければならない。
でないと、リオンはジョエル様に暴露するに違いないから。
「ジョエル様の子を産んで、幸せにしてくれる女性が他にいます。」
それは、私ではない。
「レティシア、私が婚約を申し入れたのは君だったと知っているか?」
「ルチアと婚約解消した後の話ですか?」
「いや、違う。私は君に婚約を申し入れたが婚約者として来たのはルチアだった。」
どういうこと?
「私の婚約申し入れと同時にリオンからもあったのだろう?」
確か、そうだった。
ルチアがジョエル様がいいと言ったから、レティシアはリオンと婚約した。
「あの時は、父が縁談の話が二件ある、と。ルチアがジョエル様を望んだので私はリオンと。」
父はレティシアに二件とは言わなかった。だから、ルチアでもどちらでもいいのかと思っていた。
それなのに、ジョエル様が望んだのは私だった?
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