23 / 30
23.
しおりを挟むジョエル様は最初からレティシアに婚約を申し入れたと言った。
父からはそう聞いていないレティシアは驚いた。
「承諾の返事が届き、婚約を結ぶためにご両親と君を招いたが、やってきたのはルチアだった。
私はレティシアに申し込んだはずだと伯爵に問い質したんだ。すると君はリオンと婚約した、と。
ルチアでも大差ないだろうと伯爵は思っていたらしいが非常識だろう?
だから、婚約の話は無しにしようと言ったんだ。だがルチアが食い下がってきた。」
「ルチアが?」
あの子はそんなにジョエル様がよかったの?
「ルチアは『姉が婚約解消することになれば姉と代わるから』と。
君がリオンと結婚するまでは、私とルチアの関係は婚約者未満でいるはずだった。
ルチアはその間、私に好かれる努力をするチャンスが欲しいと言ってきたんだ。」
だけど、ジョエル様はルチアを好きにはならなかった、と。
「ルチアがリオンを嵌めたのは私とリオンの婚約を解消させるため?」
「ルチアに確認はしていないが、その可能性は高いだろう。だがルチアは、リオンを嵌める前に私を襲おうとしていた。ルチアは幻覚剤『ハルシネ』の被害者だと思う。そしてリオンも。」
幻覚剤『ハルシネ』?
「何ですか、それ。」
「ごく一部の間に出回ってしまった危険薬だ。摂取すると幻覚を見る。性的欲求も強くなるそうだ。
ルチアはおそらく、ある男にハルシネを飲まされて体を許してしまった。それを誤魔化そうと私にハルシネを盛って関係を持とうとしたが私に気づかれたため、もう婚約を続けられないと判断した。」
「それで、リオンに幻覚剤を?」
リオンはお酒に酔ってルチアに触れたのではなく、幻覚剤でルチアがレティシアに見えていたということ。
確かに、ルチアも私に間違われていることに気づいていたと言っていたし、リオンも似たような発言をしていた。
「君とリオンの婚約が無くなれば、君は私の婚約者になる。ルチアは最初の契約を思い出したのだろう。
伯爵家のためにはそれがいいと判断して、リオンを狙ったと思う。」
ただルチアとジョエル様が婚約解消しただけでは、私とリオンの婚約に影響はなかったはず。
慰謝料は払うことになっただろうけど。
慰謝料……?莫大だと父が言っていた。特別な契約があるから、と。
ジョエル様と婚約したいと食い下がったのはルチアなのに、ルチアが純潔を失ったことで婚約解消することになっていたら、通常の慰謝料の何倍にもなっていたのかもしれない。
でも、ルチアに代わって私が嫁ぐことになれば、私の実家を苦しめるような慰謝料をジョエル様は請求しなくなる。
だから、ルチアはリオンを狙った。
ルチアはリオンを慕っていたわけでもないのになぜリオンだったのか、という疑問が解消された気がした。
「ルチアに幻覚剤を使った男というのは捕まったのですか?全く噂を聞いた覚えはないのですが。」
「その男はもう死んでいる。被害女性が多くてね、公表できなかったらしい。
それに、ほとんどの女性は口を噤んだまま被害を訴えていないからね。」
ルチアもその一人ということ。
「どうして、ルチアも幻覚剤の被害者だと?」
「私のお茶に入れられた成分を調べた。加害者の部屋にあった物と一致した。
ルチアがその部屋から盗み出したのだと思う。加害者が死んだ後、すぐに。」
ルチアは加害者と顔見知り以上?
「誰なのですか?その男は。」
「私たちの婚約が決まる少し前に、学園の奥にある池で心中したことにされた男だ。」
確かにそんな事故があった。
でも、心中”したことにされた”ということは、事故ではなく事件だったのだろう。
833
あなたにおすすめの小説
皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]
風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが
王命により皇太子の元に嫁ぎ
無能と言われた夫を支えていた
ある日突然
皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を
第2夫人迎えたのだった
マルティナは初恋の人である
第2皇子であった彼を新皇帝にするべく
動き出したのだった
マルティナは時間をかけながら
じっくりと王家を牛耳り
自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け
理想の人生を作り上げていく
【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》
私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか
れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。
婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。
両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。
バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。
*今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m
【完結】どうか私を思い出さないで
miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。
一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。
ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。
コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。
「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」
それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。
「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた
玉菜きゃべつ
恋愛
確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。
なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる