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しおりを挟むジョエル様はルチアに幻覚剤を使ったのは、池で心中したことにされた男だと言った。
「あれは心中ではなく、女が男を刺して、自分は池に身を投げた事件だった。」
確か、二人が恋仲だったとは誰も知らなかったと聞いたけれど、まさか……
「女性はその男の被害者だったのですか?」
「そうらしい。あの男は少なくとも九人に薬を盛っているらしい。女性のイニシャルと爵位を記したリストと、女性たちからくすねたであろうハンカチが保管してあった。
その中で、ルチアと思われる女性のハンカチだけ無くなっていた。
男が亡くなってから、彼女が回収したのだろう。その際に薬を持ち出して私やリオンに盛った。」
なるほど。
ということは、その部屋は実家ではない?
「ああ、別邸があって、友人との溜まり場のような場所があった。ルチアも何人かで行ったことがあって油断したんじゃないかと思う。」
「じゃあ、ルネットはその男の子供?」
「それはわからない。リオンの可能性もある。ルチアが男と関係を持った日からリオンに薬を使う日まで一週間ほどしか違わないんだ。」
リオンはルチアと体を繋げた記憶はない。
ルチアにしかわからないのに、ルチアはもういない。
「実は、その男の兄も学生時代に同様のことをしていた可能性があって、尋問された。
証拠はなかったが状況的に黒で、妻からは離婚され、跡継ぎからも外れた。
私の最初の婚約者は、その男の被害者なのだと思う。」
ジョエル様の言葉に驚いた。
最初の婚約が解消になった理由は知らなかった。
体調不良で静養と聞いても、婚約解消後によく使われる理由なので実情はわからない。
おそらく、不慮の事故で純潔を失って嫁ぐ資格がないと女性側から婚約解消を申し入れたのだろう。
襲われたらしい女性を気の毒に思い、どちらに非があるというわけでもなく円満に婚約解消したことにしたらしい。
「黙ったまま婚約を続けていたり結婚した女性も多くいるため、事実は隠された。」
ジョエル様はルチアが薬を盛ったお茶の成分が一致したことで、詳しく事情を知ることになったらしい。
「私は事情を知っていたのに、リオンから君を奪って結婚した。ひどい男だろう?」
ルチアがリオンに幻覚剤を盛った。
リオンは被害者で、元はルチアも被害者。
最初の婚約者のように、莫大な慰謝料を許してやることもできたのに、レティシアを手に入れるために知らないフリをしたのだとジョエル様は言った。
そこまでしてジョエル様はレティシアを望んでくれていたのだ。
「だから、子供ができないくらいで私は君と離婚する気などない。」
とても嬉しい言葉だった。
でも、だからこそ、結婚前から裏切ることをした自分が許せない。
ジョエル様の妻ではなく、ただのレティシアとして、リオンと決着をつけなければならない。
『リオンとは一緒になれない』
そう伝えて、私たちの繋がりを絶つ必要がある。
もう縛られたくない。
「私は離婚を望みます。私にはジョエル様に隠し続けてきたことがあります。」
「リオンのことか?私と三年で離婚してリオンの元に行くことを?」
ジョエル様の言葉に驚いた。
彼は三年の意味を把握していたらしい。
「……リオンのところには行きます。『一緒にはなれない』と言いに。彼の望みを叶えるつもりはありません。」
「だったら離婚する必要がどこに?」
「私が自分を許せないから。」
「……それがどんなことだろうと、私が許すよ?」
そう言ってくれるから、裏切り続けたことに心が痛くなる。
頑ななレティシアに、ジョエル様は一つ約束をしてから離婚届にサインをしてくれた。
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