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崩れ落ちたアマーリエに声をかけた者がいた。
「アマーリエ、ダメじゃないか。屋敷を抜け出して、招待されていないパーティーに乗り込んだりして。」
「……お父様。」
アマーリエの父、スコッティ伯爵だった。
「具合が悪いんだろう?早く屋敷に帰りなさい。」
スコッティ伯爵は連れて来ていた自分のところの使用人と思われる者たちにアマーリエを連れ出させた。
そして、自分は残り、この場にいる者たちに頭を下げた。
「娘がご迷惑をおかけいたしました。もう二度とあの子が姿を見せることはないとお約束いたします。」
「結局、こうなってしまいましたか。」
そう言ったのはドリステル侯爵だった。
「はい。娘は妻の犠牲者だと思い更生を期待していましたが、ここに来てしまいました。アマーリエは15歳。もう分別のつかない幼子ではありません。修道院に入れます。妻とも離縁いたします。」
格上の婚約パーティーに乗り込んできたのだ。
マーティン公爵家とドリステル侯爵家がアマーリエの発言を許したとは言え、何もなかったことにはできない。
アマーリエをドリステル侯爵家に嫁がせたいと思っていたのは伯爵夫人の独断で、おそらくスコッティ伯爵は知らされていなかったのだろう。
あるいは過去に夫人の発言を窘めたことがあり、もう終わった話だと思っていたのかもしれない。
スコッティ伯爵は、アマーリエを妻の犠牲者だと言った。
幼いころからアマーリエを洗脳してきた夫人に腹を立て、離縁を決めたらしい。
夫人の犠牲者となるとアマーリエを修道院に入れるのは厳しいのではないかという声も聞こえたが、今日のことでアマーリエは孤立すると思われた。
むしろ、貴族社会から離れた方が穏やかに過ごせるだろう。
しかし、気になるのはアマーリエの行動をまるで予測していたというような彼らの会話だった。
招待客の疑問に応えるように、ドリステル侯爵が言った。
「実は、アマーリエ嬢からセオドアが恋人だと聞いた伯爵は本当なのか嘘なのか判断がついておられなかった。しかし、もし恋人だったとしても決まった婚約に口を挟める立場ではないとわかっておられた。」
たとえ別れ話がなかったとしても、賢い令嬢であれば、恋人に婚約者ができるまでの関係でしかなかったのだと理解する。
スコッティ伯爵は、妻と娘に何度も理解を求めたのだろう。
彼は真面目で良識のある伯爵だと知られている。
しかし、夫人とアマーリエは理解できなかったそうだ。
「アマーリエ嬢がセオドアと結婚できると思い込んでいるとスコッティ伯爵から相談を受けていましてね、このままではセオドアとフィオナ嬢の婚約を非難するような声をあげるかもしれない、と。」
その時に、スコッティ伯爵は、アマーリエとセオドアが恋人関係になかったことを知ったようだ。
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