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ライザが出血に気づいた時は、手遅れだった。
妊娠初期にはよくあることだと言われたが、ライザはまた新たに心に傷を負ってしまった。
ライザはふさぎ込むようになった。
よく頭が痛いというようになり、寝ることが多くなった。
「ライザ、『ルー』の分まで僕たちが生きよう。
見せてやりたかった場所や楽しいこと、美味しいもの。
いつか僕たちがあの子のそばに逝ける時に話せるように。」
「………ええ、そうね。」
少しして、ライザは動けるようになり、やがて僕の仕事中に街へと数回行き始めた。
活気がある場所を散歩したいらしい。
侍女も一緒なので、大丈夫だろうと安心していた。
それからすぐのことだった。
僕は手足が痺れ、気分が悪くなり、数日で起き上がれなくなった。
ライザに医者を頼んでも呼んでくれない。使用人にも合わせてもらえない。
ライザに何か薬を盛られたのだとわかった。
「ライザ………」
「ヒュー、私ね、思い出したの。
あなたが浮気をしたから、私はあの男に襲われた。
あなたがあの男の話を聞いた時に私を守ってくれていれば、あの男の子供を生むこともなかった。
あなたが両親を説得してくれていれば、離婚されることはなかった。
あなたがアデラインを信じなかったら、10年もつらい生活を過ごすことはなかった。
あなたがもっと早く迎えに来てくれていれば、『ルー』を生むことができた。
生んであげたかった。私たちの子供を。……いろいろと遅かったの。あなたらしいけど。」
ああ、そうか。ライザの復讐として僕は殺されるんだ。
僕が死ぬことで君の気が少しでも晴れるのであれば、喜んで死のう。
僕を許す必要などないのだから。
ただ、死ぬ前に昔のような君の笑顔が見られたら嬉しいのに。
でもそれは、僕が息を引き取った後なんだろうな。僕は見られないか。
ああ、また。僕は後悔し続けている昔のことを夢で見るために眠る。
どんな薬を飲まされたのかはわからない。
だけど、目を開けるのも怠い。
ライザが時々何かを飲ませてくれるけど、もう数日食べていないし食べられる気もしない。
死期が近い。そう感じた。
ライザは僕が眠っていると思っているのか、いろんな話をし始めた。
「あなたが10年間、ずっと私を思ってくれていて、迎えに来てくれて嬉しかった。
ヒュー、私たち、いろいろなことを一緒にしてきたよね。
ファーストキスは歯が当たったし、エスコートで私のドレスを踏んだし。
ボートで岸に戻るのに苦労したり、ジュースとお酒を間違ったり。
でも、とても楽しかった。
私はね、ヒューと結婚してヒューの子供を生んで幸せに暮らしたかっただけなの。
『ルー』が逝ってしまって、昔のことを思い出したわ。
いっぱい泣いた。泣き疲れて眠った。
だけど、頭が痛くて痛みで意識を失うことも増えた。
目も、見え方がおかしくてね。すごく狭い範囲しか見えないの。
街の医師に診てもらった。おそらく頭の中によくない物ができているって。
それが破裂したら死ぬだろうと言われたの。多分、もう長くないって。
それを聞いた時、思ったの。
『ルー』の分まで生きられないから、早くそばに行ってあげたいって。
でもね、あなたを置いていけない。
私たち、ずっと、一緒、でしょ?
だから、先生が席を外した隙に薬を少しいただいたの。
私が逝ったあとに、あなたに好きな人ができるのは嫌なのよ。
愛してるわ、ヒュー。だからごめんね。私もすぐに逝くから。」
そうか。ライザは病気だったのか。復讐……じゃないんだな。
いや……あの恨み言はずっとライザの心の中にあったことは間違いない。
それでもまだ僕を愛してくれている。
君が僕を思ってくれるように、僕も君以外、誰も好きにはならないのに。
うん。僕も君に置いて行かれるのは嫌だ。
ごめんな。僕がライザを看取ってから追いかければよかったな。
一緒に『ルー』のところに逝こう。
神様、少しの間だけでもいいからライザの罪を許してほしい。
僕も一緒に背負うから。
少しだけでも3人でいさせてほしい。
もし、生まれ変わることが許される日が来たら、今度は違う僕になりたいな。
ライザはこんな僕でも愛してくれたけど、こんな優柔不断で不甲斐ない男は嫌だ。
頭が良くて、力もあって。
ライザはお姫様抱っこに憧れていただろう?ひ弱な僕では数歩が限界だとわかってた。
だから、本当は初夜のベッドにお姫様抱っこで運ぶつもりだった。
結局できなかったな。
あとは、好きな子以外に気を持たせることはしない。
優柔不断な態度はダメだ。ハッキリ態度で示したい。
好きな子以外にはクールな対応でいいな。
もちろん、浮気はしないし愛人もいらない。
愛する人以外は抱きたいとは思わない。
今度はそんな男になりたいなぁ。
僕は最期の力を振り絞って、目を開き、間近にあるライザの頭を撫でた。
ライザは驚いて顔を上げて僕を見た。
「ライザ、ずっと、愛してる。『ルー』と、待ってるよ。」
ライザは昔のような笑顔で応え、僕はその笑顔を目に焼き付けるように永遠に目を閉じた。
<終わり>
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